映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「息の跡」感想

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息の跡、みた。小森はるか監督初長編作品。津波で流されてしまったタネ屋をプレハブで再開する傍ら、みずからの体験を外国語で本にまとめる佐藤貞一さんを追うドキュメンタリー、監督自身が聞き手になり、ただじっと言葉を待つ。何かを引き出すのではなく、待つ。「撮る」ことの誠実さがここにある。

佐藤さんの人柄がよく伝わる映画だ。「いまの分かった?」と繰り返し監督に聞いたり、「テレビ局で高給取りになる方がいいんじゃないか」と言ってみたり。そして津波の被害に遭ってもなお前に進み続ける力。英語で本を書き、さらには中国、スペイン語…。

自分の体験を絶対に残すんだ、後世に伝えるんだという覚悟。海外の津波史も学び、あの日起きたことに真正面から向き合っている。御神木の年輪を調べて、江戸の大津波よりあとに生まれたはずだから、樹齢千年もないだろうと結論付けるくだりが面白かった。しかし、一方で御神木は御神木なのだとも言う。

ラストは印象的。佐藤さんのタネ屋もまたかさ上げ工事の対象となり、12メートルの高台の下に埋れていく。「いつかどこに何があったか絶対に忘れるから、記録してくれ」と。瀬尾夏美が言うところの「二重のまち」がここにも生まれる。解体工事の虚しさ。しかし、天に伸びる井戸の管には希望が見える。