映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園」感想

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クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園、観た。五歳児のしんちゃんたちがお受験で格差社会成果主義に絡めとられる…というドギツい風刺に面食らいつつ、学園ミステリーの謎解きを楽しみ、個性豊かなアウトサイダーに笑いながら、最後、突き抜けるような未来への希望に涙する。犯人の動機がいい!

このお話の軸はしんのすけと風間くん。ふたりの運命が分かれる序盤の「夕日」がすばらしい。ただ、最後までこれを超える見せ場はなかったと思う。クライマックスまでテンションが一定で、脚本の巧みさに唸りつつも、絵的な面白さがいまひとつであったことはたしか。土台がミステリーなので仕方ないが。

冗談めかして「スーパーエリート」なる概念が説明されるが、この一年半で多くのひとが体感したように、競争社会にはルールをつくる側の人間、既得権を守るためにあれこれと邪魔をする人間がいる。ただ映画はあくまで軸をずらして「今しか知らない」しんのすけの「風間くんのため」の戦いを描いている。

動物と暮らすろろさんや鉄仮面の番長、それからとある理由で落ちぶれてしまった生徒会長のチシオ(かわいい)など、カス組に集うアウトサイダーたちが終盤に活躍するのも示唆的である。特にチシオにたいする「冷笑」は前作「ラクガキングダム」でも描かれた。ふだんバカバカしいがゆえにエグみが強い。

学園を震え上がらせる「吸血鬼」の動機がなかなか面白い。かなり好きだ。俺は犯人の気持ちがわかる気したから。そして、真相の発覚をきっかけに、この物語は一気に「青春」の色を帯びてくる。幼稚園児が主人公にしては大人びたテーマ設定だと思ったが、これはしんちゃんたちの「その後」の話だ。

クレヨンしんちゃん」はそのほかの人気マンガシリーズと同じように、永遠と同じ季節をくり返すことが運命づけられているから、キャラの関係性を動かすのが難しい。ただ、その「予感」を示すことはできる。たとえ幼稚園で仲が良くても、いずれ大人になってちがう人生を歩むのだと観客は知っている。

人はひと所にとどまることは許されず、つねに過去の選択を悔やみながら、前へ進んでいく。「青春」とはその過程なのかもしれない。ある程度安定したところに「青春」はないからだ。笑われても好きなことをやる、大好きな友だちのためにがんばる。やっぱりそういう人は見ていてまぶしいです。

シニカルであると同時に教育的かつ啓蒙的な脚本である。しんのすけ自身がアウトサイダーだからこそ、その時々の「敵」にたいするある種のカウンター的な立ち回りが彼には許されていて、ここ二作の劇場版はそのフォーマットをうまく生かした内容になっていたと思う。過去作も掘らないとなあ。