映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「庵野秀明+松本人志 対談」感想

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庵野秀明松本人志対談」観た。新鮮な組み合わせではあるが、企画者や品川祐がふたりの化学反応に期待してこの対談をセットしたのであれば、残念ながらその目論見は失敗している。ただ、平行線をたどりながらも時折おとずれる交歓が興味深い。

松本人志庵野秀明との共通言語を探りながらも、「聞き手」として終始マゴマゴしている。核心にたどり着けないまま漂流する80分は、「ふたりの天才」という企画趣旨からすると少々物足りないのだが、いまやテレビ界のルールメーカーとして頂点に立つ男があれだけ相手に気を使う様は新鮮で面白い。

松本人志庵野秀明も当然「天才」なのだけど、なぜこれだけ評価されているかというと、ふたりとも平成から令和の「お笑い」と「アニメ」のルールを創出した人だからですよね。松本人志は「センスの笑い」に始まり、大喜利M-1の競技化…お笑いの権威としてつねに頂点に君臨してきた。

庵野秀明は言わずもがな。ルールを作ったというと少し違うかもしれないけど、彼が及ぼした影響はアニメにとどまらず、映画、マンガ、ゲーム…とそのエッセンスは日本のサブカルチャーの至るところに浸透している。ふたりともプレイヤー(=アーティスト)であると同時に、プロデューサーの立場もある。

だから対談の最後に松本人志が示した「覚悟」は、このコンテンツを肉付けするためのある種のリップサービスかもしれないけど、品川が指摘したみたいに庵野にとっての「シン・エヴァンゲリオン」的な到達点になり得るし、どうせならそこに向かって一本のトークの軸を作ってほしかった気もする。

企画者は松本人志庵野秀明を対置させるにあたり、このようなテーマ設定を前もって用意していた可能性はあるのだが、残念ながら当人たちがその趣旨を分かっていないのか、あるいは制作側のディレクションが悪くてレールを敷けていないのか、最後まで会話の歩調が噛み合わない。

ふたりに「(企画者が)なにを話してほしいのか」が伝わってない気がするんですよね。あちこちオードリーばりに台本なしで演者に丸投げのトークに(少なくとも俺には)見える。松本は庵野の作品の源流に何があるのか、庵野は松本がいまのお笑い界でなにを積み上げたのか、をどこまで知ってるんだろう。

庵野秀明松本人志も俺はそこまでディープなファンじゃないけど、エヴァはぜんぶ観たし、水ダウやIPPONはほぼ欠かず見てるし、彼らを対象にした考察や本にふれたこともあるので、この対談が表面をすら〜っと浅くなぞる感じで終わるのがもどかしい。ホントはもっと深いところに共通点がある気がする。

ただ一方で松本人志庵野秀明もまわりが解釈するようには物事を考えていないし、「笑いの求道者」とか「孤高の天才」とイメージされるほど浮世離れした存在でもなく、まじめでバランス感覚に優れたクリエイターなので、外野が勝手に期待するような対談にならないのは当然なのかもしれない。