映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「耳をすませば」感想

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耳をすませば、観た。ジブリ映画の中で一二を争うお気に入りかもしれない。夢を追う青年と出会い、地球屋で世界の広さを知る。汗かきながら登ったコンクリート・ロードの果て、丘の上から見る景色は、ふたりの未来を祝福するかのように解放的だった。「結婚してくれないか」の少女マンガ的飛躍の勝利!

雫と聖司が「カントリー・ロード」の歌を編み出していく、メロディの重なりと共にふたりの心が近づいていくセッションは白眉。「東京上空いらっしゃいませ」の「帰れない二人」に並ぶぐらいすばらしかった。音楽とごはんは人を素直にさせる気がしますね。そして音が止まると同時にふたりは喧嘩する笑

順序が逆かもしれないが「コクリコ坂から」が指向していたのはこれだったのかと。友人の好きな人に告白されてしまい、困惑した雫は地球屋にやって来るが扉は「閉まっている」。行き先のない問題に立ち止まる雫だったが、聖司は「こっちから入れるよ」と別の扉を「開ける」。聖司ルートのスタートだ。

雫という人間は常にあっちからこっちへと移動し続ける。聖蹟桜ヶ丘をモデルにした多摩丘陵の景色は、そんな彼女の冒険に立ちはだかるダンジョンだ。しかし、一見複雑なようでいて、ひたすら上を目指して山を登っていけば、最後は街を望む高台に出る。聖司はそんな「秘密の場所」まで雫を導いてくれる。

対する聖司は、そんな雫のもとにふらっと現れる。地球屋とバイオリン工房がお城だとしたら、彼はまさしく王子様だ。図書館カードに記された名前はガラスの靴と言ってもいい。ただし、彼が乗っているのは白馬ではなく自転車だけど笑 しかし彼の素直でない態度に年相応の無邪気さを感じて安心するのだ。

落ち着きなく動きまわる雫がほんとうに可愛らしいんだけど、特に聖司のことで悶々と悩んで夕子の家まで押しかけておきながら、勝手に自己解決して満足しながら帰るくだりが面白かった。ああいうカラッとした素直さが魅力なのだろう。急に小説に凝りだすのもわかる気がする。