「偶然と想像」感想
偶然と想像、観た。「テキストと発話」という濱口竜介のテーマに、エリック・ロメールやホン・サンスのエッセンスが加わった。暴力的になだれ込んでくる想定外の現実。思い通りにいかないことをありのまま幸福として受け止める。第三話「もう一度」の余韻は格別だったと思う。渋川清彦が最高。
古川琴音× 中島歩、渋川清彦× 森郁月、占部房子× 河井青葉。どの組み合わせも声質で選んだのではと思わされるぐらい、ガッチリとハマっている。淡々とした舞台風の会話劇は小説向きかと思ったが、じつは(作中でもそのまま出てくるように)会話のリズムがとても心地よく計算されている。編集も細かい。
第一話「魔法(よりもっと不確か)」はタクシーの使い方がいい。一旦進んだ道を「引き返す」こと。その後の古川琴音と中島歩の会話はスリリングで、かつ、エロティックだ。ふたりはことばで掴みあったり抱き合ったりしている。ホン・サンス的なズームも面白い。単なる痴話喧嘩だけど高級に見える笑
第二話「扉は開けたままで」も捻ってる。扉を開けたままにすることが逆説的に心理的な閉塞をも表している。渋川清彦の抑制した表情の豊かさには惚れるしかない。森郁月の声もいい。甲斐翔真のクソ大学生感がリアル。ここでもやはりテキストと声の話が。笑いも多くて楽しいが、なかなか意地悪だ。
第三話「もう一度」はいちばんのお気に入り。まず「青と白」というビビッドなスタイリングがすばらしい。ふたりの羊羹の食べ方(そのまま齧るか、切り分けるか)に性格が出る。占部房子も河井青葉も最高。突如出現したユートピア。虚構と祈りが現実に練り込まれ、ささやかな連帯が生まれる多幸感!
「偶然と想像」第一話はタクシー、第二話は路線バス、第三話は(直接は出てこないが)新幹線、と…三つの交通機関が出てくる。「親密さ」では通勤電車、「ハッピーアワー」では六甲山のケーブルカーと神戸港のフェリー、「ドライブ・マイ・カー」では赤いサーブ。どこへ何で向かうのかが大事だ。
「もう一度」のSF設定は短編らしくて面白い(そして「親密さ」の背景に朝鮮戦争勃発」の設定があったのを思い出す)が、きちんと機能していたかというと微妙だ。ただ、(撮影時期が不明なので意図したものなのかどうかわからないけど)状況がコロナ禍と重なって、面白かったと思う。