「ハウス・オブ・グッチ」感想

ハウス・オブ・グッチ。観た。上昇志向が強く、欲のままにグッチ家をひっかきまわすパトリツィアをレディ・ガガがうまく演じている。上流階級の社交場に居るとちゃんと下品な人間に見えるのがすごい。彼女がいなくても遅かれ早かれ崩壊しただろうと思わせる創業一族の体たらく。性格の悪いコメディだ。

パトリツィアは夫やパオロの前では堂々と振る舞うものの、ロドルフォと相対したり、マウリツィオの友人と接する場面になると、途端に余裕のない、背伸びをした人間に見える。その人間の小ささが隠せなくなってしまう。「黄金のアデーレ」を見て「ピカソ？」と真顔で訊き、値段を気にする人なのだ。

マウリツィオの友人との席でルーブルのプライベートツアーやエッフェル塔での食事の思い出で張りあおうとするのが虚しい。生まれつき金持ちの彼らにとってこれらが特段興味を惹く話ではないこと、成り上がり者の彼女は理解していない。逆にその余裕っぷりがグッチ家の嫌味ったらしいところだが。

刑期を終えたアルドが息子と最初にやるのは皿洗い。世界的ブランドを育てた男の末路。落ちぶれた親子の現在地を示すにふさわしい演出だと思った。しかし、アル・パチーノのチャーミングさは素晴らしい。そしてマウリツィオとパトリツィアに対する警戒感のなさよ。保守的で陰気な弟とずいぶん差がある。