「コーダ あいのうた」感想
コーダ あいのうた、観た。ルビーが漁船で仕事を手伝いながら気持ちよさそうに歌うオープニングから泣いてしまった。いつだって冒険の始まりは尊いものだ。仕事も勉強もがんばって一杯一杯のルビーを見て胸が苦しくなる。でも、みんな彼女のことが大好きだし、前に進んでほしいと願ってるんだ。傑作!
この世界は健聴者を前提に作られている。ロッシ家にとってまわりの人と同じように暮らすことは簡単ではない。ルビーに対する同級生の目線も冷たい。家族をバカにされることに彼女は辟易している。しかし、ろうあ者は決して救われたり、憐れまれたりする存在ではない。そこは徹底して描かれていた。
異なる世界を見ている者どうしが、どう向き合っていくか。それはたとえ家族でも必要なこと。血が繋がってるからとか、ずっと一緒にいるからと言って理解できるわけではない。「私が盲者だったら絵を描いたか」と母に当てこすりを言われて「どうして自分中心なんだ」と怒るルビー。彼女の17年がわかる。
一方、ろうあ者だから劣ってるなんてことはなく、やり方はいくらでもある(だからサポート不要というわけではない)。ルビーの友だちが彼女の兄に惚れる。酒場でケンカした後の彼に近づく友だちは筆談を持ちかける。前の場面で漁師仲間が気にせずペチャクチャ喋るのと対照的だ。入り口はいくつもある。
主演のエメリア・ジョーンズが抜群に良い。これからスターになるべき人。まわりの環境のせいで人より早く大人にならなくちゃいけなかったのがわかるのに、擦れてない、ピュアな人だとわかる。「シング・ストリート」以来のフェルディア・ウォルシュ=ピーロも、絶妙にナヨっとして浮いてる感じがいい。
ロッシ家は全員ろうあ者がろうあ者の役を演じている。みんないい顔していると思った。そして、なにより手話の奥深さ。「ながら見」のできない、静寂に包まれた(映画としての)緊張感であったり、ひとつ一つの所作にこもる感情の豊かさであったり。その情報量の多さに驚く。最後のサインもいいね。