映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「星の子」感想

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星の子、みた。あやしい宗教にのめり込む両親に育てられたちひろ。病弱だった自分がいま生きていることが信仰の証という残酷さ。芦田愛菜ってスクリーンを支配するスターではないが、一対一の距離感で感情のひだまで直接観客に届けてくれるような繊細さを持ってる。とても見応えのある映画だった。

多く人が語るようにこれはやはり芦田愛菜の映画である。「マルモのおきて」や「パシフィック・リム」の頃の彼女とはもう違う。16歳という年齢からしてまだ幼い少女なのだが、内面から滲み出るその聡明さと堂々たる立ち振る舞いが年齢以上の落ち着きを感じさせる。 

ただ「海街diary」の広瀬すずや「ラストレター」の森七菜のような存在感、その場にいるだけで空間を奪ってしまうような圧というものを彼女からは不思議と感じない。もしかしたら後からついてくるものかもしれないけど、いまの時点ではテレビドラマ向きではなさそう。

「君の膵臓をたべたい」で浜辺美波を見たときの「スターがそこに居る」という感覚ではない。観客とじっくり対話できる映画という媒体こそ彼女が活きる場なのでは。彼女の演技はじっと見つめてるとじわじわ味が染みてくる。和牛ステーキに対するおでんの具の関係。もうすでに渋い演技してる。

それはあくまで「この映画では」という話であって、これから俳優仕事が増えればまた変わってくるのかもしれないけど。そういえば「怪盗グルー」シリーズの声の演技もメチャクチャ可愛かったな。なんとなくシリアスな雰囲気を纏う彼女だけど、声優としてまた違った顔も見せたりするから面白い。

あえてちょっと時間をおいてみてこの感想を書いているけど、やはり思い出すのは芦田愛菜の顔なのである。暗くなるまで残っていた教室に憧れの先生がやってきたときの表情(ああ、わかる!心臓飛び出るぐらい嬉しいよね!)とか、逆にこの写真の場面の目にたっぷり涙を溜めた姿とか。

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あともう一つは本作の中で珍しく長回しをしている「叱責」の場面。見ていて苦しかった。いろんな感情が一気に押し寄せて、もはや処理できなくなってしまう。その後の友だちとの会話(同級生のアホさが癒し)もまた素晴らしい。映画のハイライトだと思う。

大友康平のあまりに「らしい」親戚のおじさん像、嫌味な役をやらせた天下一品の岡田将生高良健吾黒木華の不気味さ、宇野祥平のいぶし銀の演技。なべちゃん役の新音は初めて見たけど、すごくいい。芦田愛菜との身長差が特に。芦田愛菜との絡みはないが蒔田彩珠も良い。革ジャン最高。

新興宗教の信者二世という特殊な設定だが、思春期に家族との空間から一度目線をはずして、外との違いに悩むという経験は誰しもあるだろう。親を見られたくないとか、学校生活への干渉を嫌ったりとか、あんなに大人にはなりたくねーなとか。じゃあ親戚の家に逃げる?友だちに全部ぶちまける?

ここで「逃げる」コマンドを選んだのが姉のまーちゃんだが、主人公のちひろはどうか。まだ親離れはできない。家は確実に貧乏になっているが、そこに愛はある。親の信仰を否定することは、育ててくれた彼らの半生を、そして信仰の証としての自分の存在そのものへの否定に繋がりかねない。

拡大解釈すればそれは異世界に放り込まれたマイノリティの物語として読むこともできる。ムスリム女性にヒジャブなんて被るなと言ったらそれは暴言だが、「金星の恵みの水」だったらそれはどうなのだろう。ちひろに見えているのはそういう世界なんじゃないかと思う。なかなか新しい体験だった。