「異端の鳥」感想
異端の鳥、みた。色分けされて群に放たれた鳥のように、ユダヤ人というラベリングによって除け者にされる少年。動物虐待、レイプ、監禁、殺人…普通の人々の醜さよ。一方で侵略してきた外国の軍隊は規律が取れているという皮肉。地獄のような光景なのに、モノトーンの映像は見惚れるほど美しかった。
混乱の最中に翻弄され、孤独に旅を続ける人間の姿、道徳観を根こそぎ持って行かれそうな凄惨な現実は、「アンドレイ・ルブリョフ」を思い出した。早く逃げたい、でも、美しいから目が離せない。そんな絶妙さがこの映画にはある。信じかけた良心が何度も裏切られるのが辛い。世界は意地悪だ。
多くの人が触れるように冒頭のアレはどきっとした…本当に殺してるわけではないと思いたい。「ビリー・ザ・キッド」のニワトリ射的を思い出した。いちばん印象的だったのは、とある人物の首吊りに対するリアクション。あんなに残酷な優しさがあるだろうか。そしてそれを受け入れてしまう感覚の麻痺。
タイトルになっている異端の鳥=The Painted Birdをめぐるエピソード。他者に向けるその刃が、いざ自分やその周りに襲いかかってきた時、人はどう反応するか。終盤のソ連の軍人との邂逅も面白い。しかし、この世に「目には目を」の式など成り立たない、というの不条理こそ映画の肝なのだと思う。
ラストシークエンスは非常に印象的だが、不合理なこの世界のどこに「均衡」を見つけるか、という話なのだと俺は読んだ。まるで疫病神のように行く先々で災難に遭う(それは周囲の大人の所為なのだが)少年が、それでもこの先真っ直ぐに生きるとしたら…。二度と見たくはないが素晴らしい映画でした。