映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「氷菓」感想

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氷菓、みた。日常の小事件からはじまる謎解きが楽しい。想いを伝えられないもどかしさや、自分をわかってもらえないかもという不安、周囲の期待から感じる重圧など、思春期の悩みやおぼつかなさをみずみずしく切り取る。古典部のメンバーも愛らしい。表情がコロコロ変わる千反田えるは最高です。良作。

「SSSS.GRIDMAN」感想

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SSSS.GRIDMAN、みた。特撮オタクの少女・アカネの創り出す怪獣とグリッドマンたちの戦いを描く。カタストロフは快感だ。都合の悪い世界は破壊され、全能感が心を満たす。でも、いつまでも同じ場所にはいられない。思い通りにならない他者の存在と向き合い、自分を見つめ直すことで初めて救われるのだ。

世界はいつも自分に味方してくれるわけではない。たとえそれが妄想の世界であったとしても、たった一つの裂け目が広がって、現実が侵食していく。現実は常に不規則で、予想ができなくて、コントロールできないものだ。そのことを受け入れたとき、一歩前に進む決意が生まれるのだ。

この作品は特撮の世界に浸ることを肯定している。だれだって物語の主人公になりたい。怪獣から逃げ惑う一般人ではなく、みんなを救うヒーローになりたいと願う人は多いと思う。でも、空想の世界なら何者にだってなれる。つらい現実から自分を救ってくれるのだ。それだけで物語には価値がある。

数え切れないぐらいたくさんの特撮ネタやオマージュが散りばめられている本作。円谷作品を知る視聴者は当然そこで盛り上がる。そして最後のシーンが終わり、物語の世界から解放されたとき、この12話の「目線」と自分が完全に同じこと高さにいたことに気づく。アカネはもう一人の「自分」でもある。

正直最初の5話ぐらいは本当に微妙(というのは特撮ファン的な楽しみを除くと、という意味で)だったんだけど、それも作品の全体像が明かされると、それもすべて計算の上であったことに気づく。ある意味グリッドマンはお話の外側にいて、メタ的に役割の意味を自覚してアカネ=視聴者の世界に介入する。

「アクセス」はキーワードだと思う。いかに他者の人生にアクセスできるか。それが単なる慰めのための「妄想」と、現実を強く生きるための「物語」の違いでもある。ヒーローたちの物語は「妄想」の世界から自己を救済するための手助けをしてくれる。アカネが自分の足で立ち上がれることに意味がある。

「世界の果てまでヒャッハー!」感想

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世界の果てまでヒャッハー!、みた。悪友たちと訪れた高級リゾート地で遭難したフランクは…。あいかわらず度を越してアホなアレックス、サム、アーネスト。そして謎に生命力の強い老婆!飛行機の離陸からスカイダイビングに至るまでのシークエンスの緊張感よ。前作の勢いには劣るが、非常に良い作品。

「真夜中のパリで〜」でのマリオカートにあたるようなワクワクする場面がなかったのは惜しいのと、どうせならあの少年にたいする言及は欲しかったところ。それでもあのメンバーが再び集まった、というだけで楽しい。終始乳首に穴の空いたシャツを着ているフランクを見てるだけで笑える。

やはり滑走路を駆け抜ける老婆の疾走感よ。彼女が電動カートに乗っている場面はそれだけで面白い。今回はフランクだけでなくみんなでひどい目にあっているという印象。しかし、あの婚約指輪でうれしいのだろうか…。

 

「マチネの終わりに」感想

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マチネの終わりに、みた。すれ違い続ける蒔野と洋子の6年間の恋を描く。未来が過去を変えていく。テロや災害が頻発し、いつ突然〈明日〉がなくなるかわからない時代だからこそ、僕たちは後悔や諦めと戦い続ける。音が加わることで活字とは違った味わいに。知的な雰囲気の福山雅治石田ゆり子が良い!

自分は蒔野のように舞台の上に立つこともなければ、洋子のように上流階級に生きることもない。そう思うと「脇役」でいいから幸せになりたい、何がなんでも手に入れたいと願う早苗の無様さと切実さに共感してしまった。主役になれない人にもハッピーエンドはあるはず。桜井ユキは最高の演技でした。

「CLIMAX クライマックス」感想

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CLIMAX クライマックス、みた。爆音で流れる重低音、揺れる筋肉、窓のないダンスホール。ダンサーたちの狂宴は、サングリアに盛られたLSDによって一転、地獄の飲み会に…。その場にいるかのように錯覚するOPの長回しは圧巻!途中から退屈でひたすら帰りたくなったが、これもまた〈映画体験〉なのか…。

やはり掴みの長回しはすばらしい。どうやって撮っているのか、カメラや録音の位置は?と思うと、さっぱりわからない。激しく動くダンサーの身体を見ているうちに、彼らが人間ではなく、ただの肉の塊のように錯覚してしまった。ドラッグによって集団トランス状態になった時、その感覚は確信に変わる。

ただ中盤のドラックの回って以降の狂乱は、前半の強度に負け気味だったと思う。それでも、ぐわんぐわんと揺れるカメラ、さらけ出されるダンサーたちの欲望と怒りと不満、誰にもコントロールできない集団のダイナミズム…退屈であるがゆえに、それはリアルな体験になる。映画館が牢獄になるのだ。

だから俺がこの映画を見て「早く帰りてえ」となったのは、正しいことなのだったと思っています。あんな飲み会さっさと去りたいよ。でも、外は吹雪だから。最悪ですね、完全に地獄だ。面白い映画ではなかったが、興味深い体験ではあった。

「ターミネーター:ニュー・フェイト」感想

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ターミネーター:ニュー・フェイト、みた。映画は冒頭から予想を裏切る波乱の幕開け、そして原点回帰の逃走劇、歴戦の勇者サラ・コナー。正直途中までは面白かったのだが、シュワ登場から失速、最後はいつもの「ターミネーター」に。マッケンジー・デイヴィスの屈強かつしなやかな体躯の説得力と美よ!

女という存在をなんでもかんでも〈聖母〉の枠に収めるんじゃねーぞと。そういうパンチの込められた映画でもある。過去と現在と未来。3つの時間軸を行き来するのは楽しいが、シュワ登場以降、抱えたものが多すぎて足取りが重くなってしまった。リンダ・ハミルトンと二人並んだら負ける気しないじゃん。

ターミネーター」シリーズって、ターゲットが死んだ瞬間即ゲームオーバー、人類の未来は終わってしまうわけですよ。その孤独と緊張感が肝だと思う。グレース=マッケンジー・デイヴィスやサラ=リンダ・ハミルトンはその点生身の人間だし血も流すから、どこか心許ない。もしかしたら負けるかもと。

だけどシュワは安心感がありすぎるのだよねえ(これ以上はネタバレになりそうなのでやめます)。この映画は一にも二にもマッケンジー・デイヴィスだ。超人的な肉体と悲壮感を抱えた表情、彼女だって普通の世界にうまれていたら幸せに生きられただろうに。戦いを選ばざるを得なかった人間の悲しみ。

「ミスミソウ」感想

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ミスミソウ、みた。両親を焼き殺されたいじめられっ子の復讐からはじまる暴力の連鎖を描く。凍てつく雪原と温かい鮮血のコントラスト、そして儚げに佇む野崎=山田杏奈。カメラを突き刺すクロスボウ、停まらず殺しにかかる除雪車、ナイフでの決闘など、アクロバティックなバイオレンス描写は見どころ。

この集落は本当に地獄ですね。もうすぐ閉校するという設定から分かる通り、未来がない。誰も希望を持っていない、どうせいずれ終わるんだと諦めているから、手を差し伸べないし、助けも求めない。そういう閉鎖的な環境にひとりの少女が放り込まれる。一度歯車が狂うと、誰にも止められない。

なかなかにスプラッター。丸焼けになった妹のビジュアルからして強烈だが、アイスピックの目玉突き刺しから始まり、指の切断、はらわたの飛び出し、除雪車ミンチなど胸糞描写の連続。まあでも、あまりに極端な状況で起こるから、コミカルに見えてしまう面もある。特に除雪車。さすがに停まれたでしょ。

誰かが突っ込んでた気がするけど、時間の流れがわかりにくい。もっというと、おそらく何日かの間の出来事なのだろうが、大人たちの動きが遅い。特に警察が連続殺人を野放しにしているように見える。いじめられっ子が溜め込んでいた鬱憤を晴らすような話かと思ったが、ひたすら暴力の虚しい映画だった。

山田杏奈が良い。生まれながらにして不幸なオーラを漂っているかのよう。ヘタな女優が演じると、きっとただグロいだけで終わってたのだろうけど、彼女が演じたおかげで、より切なく、儚い映画になったと思う。状況に応じて〈怒り〉や〈悲しみ〉にグラデーションを加えている。多彩な感情表現は天才的。