映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「夏時間」感想

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夏時間、みた。事業に失敗した父に連れられ、祖父の家に転がり込んだオクジュとその弟ドンジュ。しかし、オクジュは新しい生活になじめず…。ひと夏って短いよなあ。おじいちゃんって無条件に優しいけど、時々なに考えてるかわからない。そんな共感に溢れた映画。台湾ニューシネマのような手触りだ。

キム・ボラの「はちどり」と並べて語る人も多い。たしかに10代の「少女」から見た(それは少女でなければならない)、世界への違和感という切り口は似ているが、全体的なテイストは「冬冬の夏休み」みたいな台湾ニューシネマに近い。クルマ移動を車内外から長回しで撮ったり、カメラの置き方は独特。

父親のダメっぷりがいい。「すみません」の覇気のなさ、そして、妹(オクジュから見たら叔母)に詰められたときの頼りなさよ。叔母もいい感じの距離感でオクジュに接している。長女のオクジュにとっては姉代わりの存在なんだろう。ドンジュは可愛いいたずらっ子。姉とのケンカで泣かされる演技!

一つひとつの場面のディテールに命が宿っていて、この繊細さこそ「夏時間」の肝なのだと強く実感する。いろいろお気に入りはあるけど、俺が好きなのはオクジュが夜に目が覚めて居間に降りたら、おじいちゃんがひとりソファに座って幸せそうに音楽を聴いている場面。たぶん家族には見せない顔。

あと、展開に触れてしまうので伏せるけど、終盤、「家族みんな」で「食卓」を囲う場面。みんな微妙にギクシャクして噛み合ってないのだが、それでもただモシャモシャと一緒にごはんを食べるだけで、なぜか繋がれた気持ちになれる。現れた人と、去った人。愛おしさと切なさが同居した屈指の場面だ。

独立したエピソードを繋ぎながら、ひとつの物語を編んでいく構成で、しかもどのシーンも素晴らしかったから、これからどんどん初見の記憶が抜けて落ちていってしまうのがさびしい。おじいちゃんの家の間取りも良かったな。一階に居間と祖父部屋、中二階挟んで、二階に子ども部屋。しかもぜんぶ南向き。

家の中どこにいてもスクリーン右手から太陽光が差し込む。おそらくセットではなく実際の家だと思うが、よくこんなの見つけてきたなと。おじいちゃんが大事に育てた家庭菜園も素敵。古いし今風のセンスではないけどおしゃれ。オクジュのクライマックスの演技も良かった。釜山国際映画祭で四冠も納得!