映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「落穂拾い」感想

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落穂拾い、観た。マルシェに捨てられた食材を拾うホームレスに着想を得て、デジタルカメラ片手に「現代の落穂拾い」を探す旅に出るドキュメンタリー。アニエス・ヴァルダのあらゆる被写体に対する好奇心、独特のユーモアでもって飽食と貧困の世界のグロテスクさを切り取るセンス。なんてお茶目な映画!

「この街には食べられるものがたくさん捨てられているんだ」と、十年間、食材はすべてゴミ箱から調達してきた男。しかし、定職についているのでお金には困っていないという。ここまでくると崇高な市井の哲学者に見えなくもない。アニエスの出会う人々はみんな風変わりで魅力的だ。

最後の「雑誌売りの男」もステキだ。お金がなくて朝の市場やパン屋で食べ物をあつめる。男の暮らす施設にはアフリカから来た移民がたくさんいて、修士号を持つ彼は「先生」としてボランティア活動をしている。貧困と格差の世界において決してきれいごとには回収できないが、たしかな美しさがある。

そもそもミレーの絵に代表される「落穂拾い」は、麦の収穫後、貧農たちが腹を満たすために、畑に残った麦の穂を拾い集める風習のことを言う。独特なのは、フランスではこれが「貧者の権利」として認められていることだ。「収穫した後」であれば、地主も強くは文句を言えない。これは驚きだった。

だから冒頭紹介されるジプシーたちのように、畑に捨てられた規格外のジャガイモやリンゴは、だれかが拾って持ち帰るのだ。ハート型のジャガイモを気に入っておみやげにするアニエスがチャーミング。養殖場のすぐ近くに流された牡蠣を「文句言われたらやめるよ」と何キロも回収する人たちにもビックリ。

さすがに欲張りすぎだろ…と思ったが、当人たちはケロッとしている。養殖所の持ち主のも「機嫌が良ければ」スルーするらしく、感覚のちがいを感じた。棄てられて荒れたブドウ畑を「勿体ない」と自分のものにしてしまう家族や、ガラクタを集めて作品にするアーティストたちも登場する。世界は広い…。

アニエス・ヴァルダは少しでも「面白い」と思ったらカメラを向ける。あらゆることに関心を持っている。シワだらけの手の甲を見て「知らない獣になったようだ」と迫る死を感じつつ、しかし、この歳になっても、子どものような無邪気さを失わない。ぶつ切りの練習に、おもちゃ箱の賑やかさが溢れる。

芸術家は誰も「自画像」を作るのであり、また、この作品は「映像のグラヌール(落穂拾い)」であると云う。高速道路を走るトラックに手の輪っかを重ねて捕まえようとするお茶目な態度と、貧困と格差の歴史を冷徹に見つめる政治的なまなざしが両立する。改めて凄まじいドキュメンタリー作家だと気づく。