「浅草キッド」感想
浅草キッド、観た。幻の浅草芸人・深見千三郎とビートたけしの師弟関係を描く。当時の浅草の風俗から、実在の人物の再現に至るまで完成度が高く、邦画ではなかなかお目にかかれない水準の伝記映画だ。こういう「市民ケーン」的な、大物になってから振り返る過去の話には弱い。ぜひ劇場で観たかった…。
ファーストカットが意外でドキッとしてしまう。演技やメイクに相当の自信がないとこの絵の選択はできないと思う。クオリティ低いと出足で躓いてしまうので。柳楽優弥の「ビートたけし」は(俺は彼の若い頃を知らないけど)本人のエッセンスを核に残しつつ、モノマネはならない「柳楽優弥のタケシ」だ。
もっと言うとこの映画は「有名人になったビートたけしの回想」であり、作中のタケシはあくまで「ビートたけしによる回想のたけし」と捉えることもできる。あくまで作品世界に閉じた「ビートたけし」解釈になっているのがいいと思った。きよしを演じるナイツ・土屋も目立ちすぎず絶妙なポジショニング。
大泉洋もすばらしい。この人の雰囲気が生む笑いには懐の深さと妙な切なさが同居しているけれど、斜陽のフランス座で奮闘する深見の「粋」な生き様との相性がすばらしかった。藍よりも青し。ただその背中を押すしかない師匠の悲哀とプライドが、節々に出ていて、そこに居るだけで泣けちゃう。よかった。
あと門脇麦はなにを演じさせてもうまいですね。団地のシーンはベタだけど泣ける。ビートたけしのルーツとして「タップダンス」を据えた脚本も好きだ。テレビ漫才の舞台袖で「タップダンス」が鳴る場面はこの映画におけるハイライトだろう。こういうフォーマットの伝記映画は邦画だとめずらしい。