映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「郵便配達は二度ベルを鳴らす」感想

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郵便配達は二度ベルを鳴らす、みた。夫への裏切りからはじまる関係。娼婦から這い上がろうとした女、そして駆け落ちを持ちかける男。いっときの情熱や愛というものは続かない。燃え上がったは消え、離しては掴み…。面白いことに、ジーノとジョバンナが出会った瞬間、二人が不幸になることを確信した。

最後のジーノの笑みをどう捉えるか。「やっぱりこうなったか」なのか、諦めや失望をごまかすための嘘なのか。139分はちょっと長く感じたが、濃密なドラマでした。

「新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に」感想

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新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に、超絶大傑作!映画は、所詮すべてはマスターベーションであると最初に宣言している。肥大化した自我が地球を覆い、人類を飲み込む。他者との繋がりに醒めてしまった孤独、そして最後の「気持ち悪い」。アダムとイヴの甘美な交わりなんて訪れない。

途中から作り手の自意識がどんどん漏れてきて、映画としてはどんどん不思議な形になっていくのだけど、一方でかなり直接的な表現でこの物語で何をやりたいのかってことを表してもいる。助けてくれって叫んだって誰も手を差し伸べてくれない、死にたいけど死ぬ勇気はない。かなり病んでる。

人類補完計画=他者と身も心も交わり融解するセックスの構図は、あまりにそのまま過ぎるが。別にシンジくんがセックスを知ったからと言って、廃人の裸でマスターベーションするような心根は変わらない。使徒が攻めてきて地球が割れても、世界にたった二人残されたって、他者は他者のまま。

NERVのメンバーは虐殺され、ミサトが死んで、アスカがバラバラになる。この絶望感、たまらない。最後はみんな等しく液体になる。空虚な青春パートが不気味ながらも陰惨なSFパートを中和したTVシリーズに比べ、最初から最後まで悪夢の劇場版。ユートピアを期待させて突き落とすラスト。しびれる。

だって人と人が分かり合えてるなんて幻想じゃないか、みんな分かってるフリしてるだけだと。そこまで考えが行ってしまったら、引き返せないかもしれない。だれかに関心を持つこともないだろうし、仮に誰かが手を差し伸べてくれても、それを受け止められない。これは「拗らせ」ではなく、普遍だろう。

「新世紀エヴァンゲリオン」感想

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新世紀エヴァンゲリオン、全話みた。裏死海文書とか人類補完計画なんてワード、中二の時に見てたら間違いなく道踏み外してた笑 陳腐な青春コメディ描写と、陰惨かつ核心は何も明かされないSFパートのあいだにある、あまりに深すぎる溝。両極の次元が出会い融解するのがあのラストなのだと解釈した。

このアニメ、真ん中はすっからかんな不気味さがあって、穴が開いたまま、気持ち悪いギャップを抱えて終わる。わからないことが神秘性なのだとしたら、その理由づけを人間より高次の物語によって行うのが神話なのだとしたら、エヴァンゲリオンは未完の神話なのだと思う(Wiki見たら解説あったけど)。

正直、TVアニメを真剣に見るようになったのはここ1年ぐらい、去年の冬に「宇宙よりも遠い場所」を見てからなので、とてもフレッシュな気持ちで見られました。最後2話はまあまあな眠気との闘いだったけど。次は旧劇場版を見ることにします。これ、リアルタイムで見たら衝撃だったろうなあ。

こんなにショッキングなアニメ見せられて、ネットもない時代のオタクは、どうやってこのモヤモヤした気持ちを吐き出したり、だれかと共有したんでしょう?いまとなっては想像もできない。僕だけ/私だけの感動として温めてたのだろうか。後追い世代としては、それもとても羨ましい気もする。

「凪のお暇」感想

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凪のお暇、全話みた。面白かった!みんな空気読んで、その場を取り繕って、周りにいい顔して。気づいたら「カッコ悪い」生き方をしてる。凪だけじゃない。慎二、坂本さん、みすず…。それぞれに胸の奥に抑え込んだドロドロが、偶然の助けを借りながら、ちょっとずつ取り除かれていく。優しい話でした。

「エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ」感想

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エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ、みた。高校進学を控え、冴えない自分を変えようと奮闘するケイラの物語。SNS上のアバターと、学校での無口な私と。もっとクールになれるはずともがくケイラのニキビだらけの顔も、クラスの人気者の前で丸まってしまう背中も、すべてが愛おしい。

誰しも、頭の中ではいつでも勇者で、雄弁に語るもの。そして、SNSはそんなもう一人の自分がだだ漏れになってしまう場でもある。人前ではできない振る舞いも、Macのカメラの前だったらできるし、一歩前に踏み出したことも言えてしまう。恥ずかしいこともすべて記録される。自分を相対化する鏡にもなる。

ケイラがむき出しの本心(を裏に格下「なりたい自分像」)を吐き出すのは、彼女を溺愛する父でも、学校の先生でもなく、YouTubeのチャンネルだ。彼女にとってSNSは自分を知る鏡だ。勇敢な言葉ばかり先走りがちだけど、不器用なりに有限実行しようとする強さがケイラにはある。その姿に励まされる。

ひとりだけ場違い感のあるパーティーでとりあえず「うんうん、わかるー」と消えそうな声で相づちを打つところや、先輩だと何をやってもカッコよく見えて憧れてしまうところ、とても共感できる。オリヴィアを見るケイラのキラキラした瞳、刺さりまくる。扉閉まる前にひとアクション挟むの父のウザさも。

「冬冬の夏休み」感想

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冬冬の夏休み、みた。冬冬が祖父の田舎で夏休みを過ごす様を描く。イケてるオモチャ持ってれば尊敬される、妹には少し意地悪したくなる、意味はよくわからなくてもオトナのいざこざは敏感に感じ取る。侯孝賢はどうやってこの年頃の感性をみずみずしく切り取ったのだろうかと…。懐かしさ溢れる傑作!

となりのトトロ」を思い出す。中学入学前ということはこれから少しずつ「大人」になっていく時期。とはいえまだまだ「幼児」の面影すら残っている。冬冬はあまり表情に強く気持ちを出す方ではないようだが、小学生っていつもこういう感じでボケーっとしてる気もする。昔の自分を見ているようだった。

台湾でも卒業式は「仰げば尊し」なのか!と驚き。占領していた頃の名残なのは少々複雑だが。寒子のエピソードもいい。ああいう不思議な交流って、夏休みっぽいよね。最後は「赤とんぼ」が流れる。どこまでも遠くへ消えていく車の影を見て、この夏はもう戻ってこないのだと悟る。切なくも美しいラスト。

「聖者たちの食卓」感想

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聖者たちの食卓、傑作!シク教総本山ハリマンディル・サーヒブで毎日無料で提供される10万食の豆カレー、その舞台裏に迫るドキュメンタリー。無駄ひとつない手さばき!すべて無償労働というから驚き。500年間生き続ける巨大な生命体と言ってもいい。尊い文化がここにある。66分で旅行気分を味わえる。

カーストや性別に関係なく、みんなが同じ場所で同じものを食べる。インド社会にはさまざまなしがらみがあるが、だからこそ、このような聖域が美しいものとして映る。解説はほぼないのだが、その分、生活者たちの背景や人生への好奇心、想像力を刺激される。世界って広いなあ。ドキュメンタリー、良い。