映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「マリッジ・ストーリー」感想

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マリッジ・ストーリー、大傑作!どれだけたくさん愛おしいところを言い合えたって、些細な〈許せない〉の積み重なりが二人を引き裂いてしまう。結婚という制度はすごく残酷で、しょせん人間が作った赤の他人同士を結びつけるための契約でしかない。しかし、二人が愛し合った過去は決して消えないのだ。

愛していた。愛されていた。だからこそ憎い。一度でもそういう関係にまでなれたこと。俺はすごく素敵だと思うけど、もしかしたら人によっては〈呪い〉に映るかもしれない。チャーリーとニコールの罵詈雑言の応酬の中にただようかつての夫婦の愛の残り香。どうしてこうなってしまったんだろう?

二人が幸せだった過去が消えることはない。でも、時を経て感情が上塗りされて、まったく異なる色彩を帯びてくることもある。それっていまがどん底の人には希望かもしれないし、逆に「出会って2秒で恋に落ちた」瞬間のふたりにとっては絶望になるかもしれない。幸せは長続きしない。良くも悪くも。

クレイマー、クレイマー」のエレベーターの扉が閉まる瞬間みたいに、「マリッジ・ストーリー」のラストは、これまでが底辺だったからこその〈光明〉なわけです。不思議と後味の良い終わり方だけど、これって別にしあわせな幕引きではないんじゃないかなあと思ったりする。

なんども練習で痛めつけて、壊した分だけ太い骨を作ろうとする空手選手みたいに、たくさん傷つくことを経験して〈鈍感〉になることが大人への道なのかもしれない。そう考えると、やっぱりあのラストはチャーリーとニコールの成長であり、俺にはまだ見えていない世界の景色なのだろうという思いもある。

冒頭のセラピーの回想場面はグッと心掴まれた。食い気味の編集とナレーション。全体的に緩急の効いた編集が良い。複数人の感情が交錯するシチュエーションでは、カットを細かく割ってテンポよく積み上げ、チャーリーやニコールが本心をぶちまける場面は長回しや寄りの絵でじっくり見せる。

スカーレット・ヨハンソンがとにかく感情を吐き出す中盤の長回しや、クライマックスにおける彼女とアダム・ドライバーの〈話し合い〉の場面はすさまじい。映画を見るというより、演技そのものを見るという感じ。

「G線上のあなたと私」全話感想

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G線上のあなたと私、全話完走した。すごく優しいドラマでした。今さら何者になろうというわけでもない、大人たちの音楽教室。彼らには普段の生活がある。テストの前は忙しいし、家族のお世話に付きっきりの時もある。それでもみんなでカラオケルームに集まって練習する。これが生きるってことなんだ!

バイオリン習っても、べつにプロになる必要なんてなくない?上手くなろうって心意気は大事だけどね、というスタンスを貫いた作品だった。「なりたい自分」や「理想的な未来」を追いかけるのは大事だけど、そればかりやってると疲れちゃう。現実とのギャップに傷つくし、他人と比較もしたくなる。

そうじゃなくて、ほどよく肩の力を抜いて、今やりたいこと、心地よいこと、本当にすきな何かに身を委ねてもいいじゃないか。一度脱線してしまった〈レール〉に戻れない自分を責め、叶わぬ恋に酔いしれ、完ぺきなお母さんを演じる。満員電車に無理やり乗り込むように、自分を型に詰め込む人生は苦しい。

このドラマは「G線上のアリア」に新しい色を加えてくれた。街中でこの曲を耳にするたび、泣きじゃくる也映子の顔や、カラオケボックス海老名駅前の歩道橋が目に浮かぶ。三銃士が先生の前で披露した「G線上のアリア」には失恋の思い出や離れていても側にいると感じられた瞬間の高揚感が詰まってる。

第1話の冒頭、也映子は絶望的な告白をされ放心状態で歩き回った末に「G線上のアリア」を耳にする。3人の旅はあそこから始まった。ぎこちない、耳にさわるようなバイオリオンの音色がなぜか心地よかった。あの3人なら「アリア」は特別な曲だと答えるだろう。俺にとってもそう。一緒に泣き笑った気分。

ちょくちょく也映子がめんどくさかったり、ところどころ展開に弛みはあったのだけど、ひと肌恋しいこの季節、家に帰ってコタツでのんびり見るにちょうどいい温かさのドラマだったと思う。すきな作品でした。

「サイゴン・クチュール」感想

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サイゴン・クチュール、みた。仕立て屋の傲慢な娘が1969年から現代にタイムスリップ!没落した実家を救うため奮闘する様を描く。面白かった!アオザイって奥が深い。着る人の美を最大限引きだすフォルムに惚れ惚れ。ポップでカラフルなデザインも眼福。勢いあるホーチミンのカルチャーを堪能しました。

主演のニン・ズーン・ラン・ゴックは、1969年メイクの時だとそれほどだけど、2017年メイク&ファッションに変身した途端、ものすごく綺麗になってびっくりしました。こんなにも洗練されるのかと。絶望的な未来を突きつけられ、もがき苦しむ中で成長していくニュイが健気で可愛らしかったです。

プライドを捨てられず世捨て人になってしまったアン・カインが憎めない。彼女の弱さを非難できるほど強い人、いるのだろうか。また受け入れてあげたくなるチャーミングさがあるのよね。一方、プラダを着た悪魔」をそのままトレースした省略や編集が目に付くし、時々とんでもなく野暮ったい演出が…。

アン・カインとタン・ロアンが再会する鏡張りの部屋の場面は、カメラの置き場所に困ったのか知らないけど、アングル、カット割り共に鈍臭く感じた。これに限らず位置関係がよくわからないカットが時々あり、ノイズに感じてしまった。

劇伴もハイテンションな場面は少し派手なぐらいでちょうどいいけど、エモーショナルはシチュエーションで同じことやられるとしつこい…と思ったり。アオザイという伝統の断絶の裏に、この国が歩んだ凄惨な歴史を想起せずにはいられないが、映画ではその要素は完全にオミットされている。

それが良いのか、悪いのか、俺には判断できないけれど、ひとつ言えるのは「サイゴン・クチュール」はホーチミン、ひいてはベトナムのいまと未来を映そうとしている、ということ。映画自体は2年前の作品だけど、ちょうどその頃自分もベトナム旅行をしていたなと思い出す。

「クレイジー・リッチ」を見た時の寂しさアゲイン。ホーチミンのランドマークもチラホラ背景に映り、観光映画として見ても面白い。これにあとグルメ描写が加われば完璧だった(「塩辛い卵焼き」はでてくるけど)。K's Cinemaで上映して本来のターゲット層が見にくるのか謎だが、良質な商業映画だった。

「アニエスによるヴァルダ」感想

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アニエスによるヴァルダ、みた。ヌーヴェル・ヴァーグを代表する作家、アニエス・ヴァルダが自らの人生を振り返る。写真家からキャリアをはじめ、映画製作、インスタレーションの発表まで、90歳になるまでつねに表現の手法を模索し続けたパワフルさにひたすら驚く。遺作であの幕引きは出来すぎてるよ!

創作は「ひらめき、創造、共有」が原点であると語るアニエス。彼女の作品は「幸福」と「5時から7時までのクレオ」を見ているけど、他にももっと見なくてはと。「冬の旅」が特に気になる。横移動の話が興味深い。平凡なものを見つめているうちに、そこに〈特別〉が現れてくるのだという話も面白かった。

この平凡にたいする目線って、作中でも紹介されていた「5時から7時までのクレオ」に通ずるなあと。行き交う人々の目線、主人公の背景に広がる生活、誰かが死んでも変わらず進み続ける世界の時間。クレオの憂鬱と対照的なまわりの反応が面白いのがあの映画だと思う。

アニエスのカラフルな世界を浴びながら、彼女ってひとつのテーマに固執するというよりは、豊かな発想力とひらめきで世界を広げていく人なのかな?と思った。一方で「昔から今までずっとフェミニストでした」とも。寝不足でちょくちょく意識が飛んでしまったけど、もっと彼女のことを知らなければ。

「スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け」感想

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スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け、みた。三部作の完結編。単なる光と闇の二項対立では割り切れないレイとレンの関係、レジスタンスの成長と絆、明らかになる真の敵。アクションアドベンチャーとしては楽しかったけど、これが壮大なサーガの締めくくりでいいのか?というと微妙…。

これにてレイの三部作は完結。あのエンディングを見て真っ先に思ったのは、けっきょくシリーズ再始動する必要あった?ってこと。けっきょくこの物語を通してなにを描きたいかっていう哲学がなかった気がする。「血縁からの解放」はひとつの重要なテーマだが、強力な推進力になっていたかというと…?

「オリーブの林をぬけて」感想

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オリーブの林をぬけて、みた。ジグザグ道三部作の完結編。大地震に見舞われたラケルではじまる映画撮影。結ばれなかった男と女が夫婦の役を演じて…。あいかわらず会話の間がおもしろい。素朴で抜けた感じが良い。ジグザグ道を下りながら必死で女の子を追いかける様がちょっぴり無様でいて爽やか。

あいだ少し船を漕いでしまい、話の筋を追いかけるのが困難に…。平日夜に見る映画は選ぶべきと反省。ラケルが舞台の作品も三作目となると、なんとなく地理や雰囲気もわかってきて、なるほどここねとちょっとした地元民の気持ちに。現実と映画の交錯した世界観が特殊だが、どうして挑戦したんだろうな。

「金子文子と朴烈」感想

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金子文子と朴烈、みた。関東大震災に端を発した朝鮮人虐殺と権力に抗う男と女の愛を描く。日本人は犯した罪を必死に忘れようとするが、彼らが生きた証も、恥ずべき過去も消えることはない。いい意味でふてぶてしく、生きたいように生きようとする文子と朴烈が魅力的だが、留置所内での会話が少々淡白。

あの〈怪写真〉は有名らしい。そこに至るまでの経緯が面白い。背景知識があまりないので、文子が朴烈にたどり着くまで、そして二人が共に革命と愛に命を捧げるようになるまでの過程の描写が物足りなく感じる。特に文子。日本人の彼女がなぜ反体制側である朴烈らに強烈に惹かれたのかもっと見たかった。

あと韓国映画なのである程度は仕方ないにしても、さすがに大正時代の日本描写にいくつか違和感があり、ノイズになってしまった部分はある。しかし水野錬太郎役のキム・イヌは憎たらしくてとても良かった(黒幕として描くにしてもやりすぎ感はあるけど…)。ぜひ日本の作品にも出て欲しい。

当時の朝鮮人差別の実態や天皇制への批判もこの時代を描くのだから当然盛り込まれているわけだけど、これはあくまで〈反戦映画〉なのだなと思う。権力や差別に対し、そしてそれをなかったことにしようとする態度には厳しい目を向けるが、いたずらに憎悪を煽るような内容には決してなっていない。

そしてもっというとこれはロマンスなのですね。見方を変えれば、二人は自分たちの世界の中にいて、外界がどうなろうが知らん!と燃えがっている少々危うい存在なのだが、この作品の対象との距離感がちょうどいい塩梅なのである。しかしそのせいか日本社会は描かれず、ほとんど密室で事が進むため退屈。