映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「フェアウェル」感想

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フェアウェル、みた。NY在住のビリーは中国に住む祖母が余命宣告を受けたと知り…。是枝裕和山田洋次の名を挙げる人が多いのも納得。同じアジアながら日本とは異なる中国の家族観も興味深い。これが最後だと相手に隠して告げるお別れって、どんなものなのだろう。家族ってめんどくさいなあ。

悪い気を吐き出す健康法を教わる場面が好き。ああいうおばあちゃんと孫の交わり方って、お互いどれだけ歳をとっても大人になっても変わらないんだよ。親子だとそうもいかないんだけど。不思議だ。カットを割らず長回しで見せるのも良い。空気感がフレッシュに伝わってくる。

物心ついて以降近親者を亡くしたことがないから、死別の重みって分からない。けど、祖母が脳梗塞で倒れてボケてしまって会話も少し難しくなってしまったことを思い出してしまった。倒れる前最後に会った日、あんまりちゃんと話さなかったこと、いまだに後悔している。

たしか正月祖母の家に行ってみんなで晩ごはん食べながらとんねるずのスポーツ王見てた。どうせまた何ヶ月かしたら会いに来るしと思ってたけど、テレビなんか見ないで話すべきこといくらでもあったんだよなあ。悪いことしたなって罪悪感がある。

「フェアウェル」全体に漂う、ウソをついていることによる居心地の悪さとか、おばあちゃんにたいする負い目みたいなものをもっと広く捉えてみると、これは身に覚えがあるなと。孫として甘やかされる罪悪感ってあるんだよな。お小遣いたくさん貰ったり。俺だけかもしれないけどそこがすごく響いた。

観賞後個人的な体験や感情をえぐり出されるという意味で非常にいい映画だったと思う。上京してきて帰る田舎がある人や、海外在住経験がある人にはもっと響くツボがあるのかも。ビリーが車窓から見る景色はきっと監督自身の脳裏に焼き付いた記憶の再生なんじゃないかなあ。感想おしまい。

「マーティン・エデン」感想

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マーティン・エデン、みた。貧しく無学な青年が上流階級のエレナと邂逅し文学に目覚めていくが…。ザラついたフィルムの質感、時折挿入される時代不明の回想、ポップな音楽。ディテールと抽象を行き来する不思議な映像に引き込まれる。夢を叶えても幸せになれない。生きることの虚しさを考えてしまう。

主演のルカ・マリネッリの身体がいい。ガッチリした少し窮屈さすら感じさせる体格は彼の生まれや粗野な性格がにじみ出ている。一方そのギラついた目つきは知性と共に活動家のエネルギーを感じさせる。どれだけ知識を身につけても暴力の効用を信じているのが興味深い。

この映画が放つ退廃的で耽美、死の匂いすら漂う病的な輝きは、多くの人が指摘するようにヴィスコンティの作品を連想させる。正直イタリア映画は時間の使い方がもっさりしていて尺以上の長さを感じさせるが得意ではない(本作も例外ではない)のだが、いい意味で「らしくない」編集が心地よかった。

「ミッドナイトスワン」感想

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ミッドナイトスワン、みた。新宿2丁目で踊り子・凪沙のもとに、育児放棄された親戚の子・一果がやって来て…。ふたりがバレエを通して心通わせて行く前半部分まではことしベスト。テーマ曲「Midnight Swan」のピアノ旋律の切なさ、転調後の力強さは最高。音楽の力って凄い。しかし後半…好きじゃない。

コンクリートにカビの生えてそうなボロ団地の廊下で、ひとりこっそりとバレエの練習に励む一果。彼女のためならと自慢の長髪をばっさり切り落とす凪沙。大都会の隅っこで我慢を強いられてきたふたりの、ささやかながらも美しい真夜中の交感。ふたり並んだ後ろ姿のなんて美しいこと。

自分を大切にできなかった、させてもらえなかったふたりの輝きは本物だったと思う。「母親」の自覚が芽生えるとともに凛とした美しさを増して行く凪沙。草彅剛の表現はずば抜けてたと思う。あの人の横顔、全然気づかなかったけどすごく綺麗なんだな。しかし、だからこそか、その美しさが切ないのだ。

一果役の服部樹咲は本当に素晴らしかった。身体と佇まいであそこまで成長と洗練を表現しているのだから信じられない。あの年頃の女の子なんて一年もすればガラッと変わってしまうでしょ。最初と最後で別人のようになってる。頼りなかった細い手足が、しなやかで美しい白鳥の翼に生まれ変わるのだ。

しかしこの映画は前半と後半でテイストが少々異なる。俺は凪沙にフォーカスした前半がたまらなく好きだったのだが、一果の成長に主軸が移るにつれ、映画はどんどん輝きを失っていく。なぜトランスジェンダーの人生は「悲しく」あらねばならぬのか。彼女は惨めな目に遭う必要はあったのだろうか。

たしかにクィアに対する日本社会の目線は冷たい。俺自身すべてを理解しているつもりはないし、そもそもできないと思っている。しかし、だからと言って物語に於いて彼らに定型的な「悲しい」役目を押し付ければそれは現実を、生身の人間を描いたことになるのか。ステレオタイプそのままではないか。

河野真太郎先生は「本質主義的な異性愛規範や健常身体性主義から一歩も出ない物語」としているが、自分なりに読み解けば映画は結局のところ彼らを「こちら側ではない人たち」としてしか描けなかったのではと思います。彼らがトランスだから不幸であるかのように見えてしまう。

「海」や生き生きと踊る一果の表情を捉える映像は本当に素晴らしく、歌舞伎町の住人たちの生き様(ショークラブの活気に、どうしてもコロナ禍の彼らの苦境を思わずに居られなかったが)は面白かった。音楽の力もあって前半は何度も泣いた。でも、時間が経って冷静に考えるとこれで良かったのか?と。

センシティブな問題である上に、やはりこの手の話題は当事者の言葉が第一にあるべきであって、俺がいくら捻ったって正解が出るわけではない、どう扱ったって批判の出る題材である。ユートピア的ですらあるが男性カップルの人生を肯定的に捉えた「his」と比べても、一歩手前で止まってたかなと思う。

「エノーラ・ホームズの事件簿」感想

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エノーラ・ホームズの事件簿、面白かった!最高の夏休み映画。ミリー・ボビー・ブラウンが可愛い!これに尽きる。悪戯っぽく観客に語りかけ、大人の欺瞞に怒り、侯爵にほんのりと恋心を抱く。19世紀が舞台だが、花嫁学校がディストピアのように見えてきて面白い。正統派エンパワメント映画でもある。

エノーラにニコッと微笑みかけられて一瞬で落ちた。年相応の無邪気さと、いまの若者のロールモデルになりそうな聡明さと。あまりに物分かりののすぎるシャーロックに若干の違和感はあるが、変人すぎるが故にいまの目線で見たら全く正しいことを言っている、マイナス×マイナス=プラスの状態になってる。

ヘレナ・ボナム・カーターはそのまんま「Suffragette(敢えて原題で書く)」だった。この時代に女性の置かれている立場は地獄で、エノーラが事あるごとに男装し、周囲から淑女としての振る舞いを求められるところにそれは現れているのだが、仲間たちは彼女の背中をそっと押すのである。

マイクロフトが完全に嫌なやつに振り切っていて非常に良かった。まだまだ続編作れそうなオチだったので、これからに期待したい。感想おしまい。

「半沢直樹(シーズン2)」感想

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半沢直樹、面白かった。ホントに1クールのドラマかってぐらい詰め込んでるし濃い。もはやスパイラル編の記憶が薄れかけている。柄本明の妖怪じみたオーラが凄まじかったし、最後の大和田常務=香川照之の半沢への期待、尊敬、寂しさ、憎たらしさなど複雑な感情入り混じる笑顔が最高でした。

非常に大仰で笑いを誘う演技ではあるのだが、かなりの技術を持った役者たちが集っているので、ぎりぎりコントに行く手間で踏みとどまり、いまのニッポン社会のヤダ味を凝縮したカリカチュアになっているわけですね。「半沢直樹」のリアリティラインの中でしっかり血の通った人間としてそこに居る。

ロケーションに拘っていてただただ背景がリッチなのも良かったですね。俺的にいちばんお気に入りは副頭取と伊佐山部長が悪巧みする場面の東京タワーと増上寺。ここである必要性は皆無なんだけど、絵面としてカッコ良いので大正解。紀本常務の潜伏先のホテルも無駄に良い夜景が映ってた。こういうの大事。

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最終話の半沢の演説はどストレートな政治批判でもあった。「記憶にない」で逃げ切ろうとする箕部の狡猾な様に、安倍晋三菅義偉の顔がチラついたのは自分だけではないと思う。なにより大人たちがきちんと責任を取る、悪事がうやむやにされないのがいちばんのファンタジーになる日本の現実が悲しい。

「ヴィタリナ」感想

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ヴィタリナ、みた。出稼ぎに行ったまま死んだ夫の部屋で暮らし始めたヴィタリナの物語。カラヴァッジオの絵画のように激烈なコントラストで魅せる。光の中に影があるというより、暗闇の中に陽が差しているかのようだ。一つひとつの絵が強すぎて物語にまで意識が回らなかった。というか少し寝た。

去年の東京フィルメックスで上映された作品だが、これもまた「女の受難」を描いた映画だった。もう何十年も会っていない、すでに死んだ夫の生きた証を拾い集める作業。それは愛を確かめる行為なのだろうか。痙攣する神父の手は、この村の男たちの弱さと罪の現れだろう。

がさがさと後ろで鳴り響く生活音が、この映画のリズムを作っている。ゆえに眠気を誘う。隣のオヤジは開始早々気持ちよさそうに寝息を立てていた。なんの変哲もないボロ屋に、あり得たかもしれない夫婦のつつましい同居生活を想像してしまう。終始薄暗いからこそ時折挟まれる昼日中のカットが印象的。

「メイキング・オブ・モータウン」感想

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メイキング・オブ・モータウン、大傑作!デトロイトの小さな一軒家から始まったレーベルがやがて世界の音楽シーンを塗り替えていく。数々の名曲を貴重な記録映像と共に鑑賞できるだけで大いに満足なのだが、スプリームスジャクソン5に熱狂した当時の黒人の若者たちの感動を思うとか胸が熱くなる。

とある楽曲をめぐるベリー・ゴーディダイアナ・ロスのやりとりがよかったな〜。それからマーヴィン・ゲイの「What's Gonig On」も素晴らしかった。ベリーの教えがやがて彼の作った枠をも乗り越え、商業主義から政治性を孕んだ音楽へ。藍よりも青し。パキパキとしたファンクな編集も大好き。

ことしはドキュメンタリーもなるべく見るようにしてるんだけど、その中でもかなり面白い部類だった。ふつうに音楽映画として優秀。帰ったらサントラ聴こう。感想おしまい。