映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

2021年上半期ベスト(新作)

f:id:StarSpangledMan:20210627212658j:image

①二重のまち/交代地のうたを編む🇯🇵②いとみち🇯🇵
③聖なる犯罪者🇵🇱
ノマドランド🇺🇸
⑤まともじゃないのは君も一緒🇯🇵
⑥ピーチ・バム🇺🇸
⑦別に、友達とかじゃない🇯🇵
⑧青葉家のテーブル🇯🇵
⑨アンコントロール🇩🇰
⑩オクトパスの神秘🇿🇦

 

洋画編

①二重のまち/交代地のうたを編む
②いとみち
③まともじゃないのは君も一緒
④別に、友達とかじゃない
⑤青葉家のテーブル
⑥あのこは貴族
⑦シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇
⑧映画大好きポンポさん
⑨街の上で
⑩花束みたいな恋をした

 

邦画編

①聖なる犯罪者🇵🇱
ノマドランド🇺🇸
③ビーチ・バム🇺🇸
④アンコントロール🇩🇰
⑤オクトパスの神秘🇿🇦
オーストリアからオーストラリアへ🇦🇹
⑦ファイト・ガール🇳🇱
⑧RUN/ラン🇺🇸
⑨わたしの叔父さん🇩🇰
⑩ホワッツ・イン・ザ・シェッド🇺🇸

「いとみち」感想

f:id:StarSpangledMan:20210627174049j:image

いとみち、観た。これは素晴らしい!母を亡くした内向的な少女が、三味線やメイドカフェの仲間たちと向き合い、成長していく様を描く。津軽弁のあたたかく素朴なリズムと、津軽三味線の荒々しいパワフルな音色が、迷える少女を導いていく。三味線を弾くその表情がすべてを雄弁に物語っている。大傑作!

津軽弁がマジでなに言ってるかわからないレベルでキツい。パンフのインタビューで演者が口々に「これ青森県民以外わかるの?」と漏らしているが、もちろん理解できるはずがない笑 しかし、言葉のリズムや、そこに包まれている青森の暮らしの匂いや空気にこそ、この物語の肝がある。だから心配無用。

駒井蓮はすごい。完全に女優のオーラを消し去っているし、そこらへんにいる田舎女子にしか見えない。言葉で自分を表現できない、一見弱そうで垢抜けない女の子だけど、わりと頑固で、選んだ道はどんどん進む、真の強い子でもある。「あはぁ」みたいな相づちが可愛い。そして三味線を弾く姿ね。

その必死で演奏に向き合う姿が、いとのおばあちゃん(西川洋子、ガチのレジェンド奏者らしいです)の優しくも迫力ある表情との対比になっている。おばあちゃんの演技めちゃくちゃよかったですよ。三味線うますぎてさすがに途中でわかったけど、最初はフツーにベテラン女優さんかと思った。

豊川悦司も最高です。ちょっと浮世離れした、旅人のような佇まいのある、不思議なお父さんを、しかしファンタジーにならずに演じている。職人技ですね。横田真悠のコメディ演技も捨てがたい。女優といえばSeventeenで、non-noの彼女はそれほど演技仕事ないものの、「踊ってミタ」からの進化に驚いた。

腹の底に溜まったドス黒い感情を吐き出す場面もあるのだが、これはすごくいいなと思った。また、黒川芽以や中島歩といった助演たちの演技も安定している。メイドカフェを巡る話はそれなりにベタなのだが、ふたりの存在感(とトヨエツ)がご当地映画の枠を軽々しくぶっ壊し、作品のレベルを上げていた。

板柳の風景や、岩木山の景色もうつくしい。あの高くそびえ立つ山が、いとの乗り越えるべき「壁」でもいるわけですね。また、青森空襲や地域間格差、そして「メイドカフェ」を巡るジェンダーの問題など、細かい目配せが効いている。しかも後者に関しては映画オリジナルの要素とのことだ。

横浜聡子監督は「少女ムシェット」「レディ・バード」「ローラーガールズ・ダイアリー」を参考にしたらしい。ご当地映画らしく爽やかな清涼感を湛えつつも、コロナ禍以降の「不確かさ」にすら目を向けた、ポスターのダサささえなければ…と思わずにいられないが、非常にいい映画でした。

「RUN/ラン」感想

f:id:StarSpangledMan:20210626231335j:image

RUN/ラン、面白かった。生まれつきの喘息持ちで車いす。そんな不自由な生活を送るクロエを献身的に支える母・クロエには秘密があり…。一本のネタで走り切る胆力!サラ・ポールソン演じる母の憎たらしさよ。本気で倒されてくれと願ったので、この映画の勝ち。清原果耶×木村佳乃でリメイクしてほしい。

一軒家で展開されるサスペンスはとても緊迫感があったし、面白く見たのだけれど、正直、演出に関しては平均点だったと思う。むしろ劇伴のアシストが効いていた。コントラバス?のギコギコ音がいい感じ。狭い空間の使い方は最近のホラーだと「ドント・ブリーズ」がよかったかな〜。

たとえば母親がキッチンで誰かと電話する姿を廊下から覗く視点のカットが何回かあるのだけど、イマイチのっぺりしていた。しかし、ゴア描写もなく、突然何かが飛び出してびっくりする場面もないのに、じっとりイヤ〜な事実が明かされ、不快感が蓄積される。ハンデを背負う主人公を応援したくなる。

ミザリー」っぽさもある。車いすや喘息といった当人からすれば切実な問題を、ホラー映画のギミックにしてしまうのは、観ている自分もなぜか気が引けたり、「面白い!」と言いきれなかったりする。あくまで誠実でありたいと思うのだが、でもやっぱり楽しい映画は楽しい。配達員のリアクションが良い。

「1秒先の彼女」感想

f:id:StarSpangledMan:20210626231153j:image

1秒先の彼女、観た。とってもチャーミングなSF。これぞ現代版「織姫と彦星」。シャオチーがスクリーンの中をドタバタと動きまわるだけで楽しいのだが、それだけでは終わらない。雑多な近代都市から、のどかな農村地域まで、台湾のおいしさが散りばめられている。バスの使い方が印象的だった。

f:id:StarSpangledMan:20210626231215j:image

しかし、後半の展開はアレでよかったのかと思わなくもない。妙な違和感を抱きつつ、まあ、とりあえず作品のトーンに乗っかって楽しむかと、気にしないことにしたけど。バスがとても良い。何もないが美しい道をすーっと進んでいく。いつかたどり着く終着駅に向けて。ポップな音楽が彩りになっている。

バスといえば個人的には金子由里奈の「眠る虫」なんだけれども。そこだけ時間が止まっているかのように幻想的なバスの車内と、車窓に映る夜景。あればいい映像だったな。あとウルトラQの「あけてくれ!」の異次元列車とかね。SFの中のバスはとてもいい働きをしてくれる。日常と非日常のスキマ。

まあまあチープな演出もあるのだが、そこは愛嬌として捉えよう。全然テイストは違うけど、大九明子の「勝手にふるえてろ」を思い出す。個人的にせっかく台湾ならもっとうまそうなメシが見たかった。豆花(トウファ)だって、見た目はわかるけど、ちゃんと見せてほしい。あ〜食べたい!ってなりたい。

意外とあんまりこういうテンションの恋愛映画って撮られてないんだよなと思った。主人公のシャオチーも、話を追うごとに魅力的に感じられてくる。恋する人は、何倍も可愛く見えるものなのだ。ちなみにキーナンバーになる「038」は、セリフにも出てくるけど「アホ」みたいな意味らしい。

「海辺の金魚」感想

f:id:StarSpangledMan:20210626231042j:image

海辺の金魚、観た。小川紗良長編デビュー作。児童養護施設で暮らすふたりの少女の物語。手堅い映画だな〜と思ったけど、監督のカラーが出てくるのは次回作以降なのかな。どの要素もバランスがいいからこそ、全体的なインパクトは弱かったように思う。浜辺の夕陽のカットはとても美しかった。

「心に傷を負った少女たちの交流」という切り口は古今東西なんども擦られてきた定番であり、「海辺の金魚」から殊更フレッシュな勢いを感じることはできなかった。とてもスマートに撮られている分、一作目なんだしもっと賛否が割れるぐらいエッジを効かせてほしいとも思った。思ったより普通。

実在の事件からネタを引っ張るあたり、是枝イズムを感じたが。阿久根市のロケーションはとても良かったと思う。町が魅力的に見える映画に、悪い映画はないですよね。晴海役の女の子はこの地のオーディションで選ばれたらしいが、こんな逸材が埋まってるのかとびっくりした。笑顔がかわいい。

主演の小川未祐も複雑な背景を抱えた人物を、軽やかに演じていた。施設内のほかの子どもへの接し方や、大人との関わる様に、花のつよさや苦しみがにじみ出ていた。「よこがお」や「スペシャルアクターズ」に出ていたらしいが覚えていない。これを機にマークしよう。

「Arc アーク」感想

f:id:StarSpangledMan:20210626024241j:image

Arc アーク、観た。人類初の「不老不死」の女性の人生を描く。これを30分の短編にまとめたら傑作だったのにな〜という感覚は最後まで拭えなかった。フランスや北欧あたりの近未来SFを志向しつつ、邦画らしさも漂わせる。正直、チグハグな部分も目立つのだけど、逆に「こんなSF見たことない」とも思う。

画で見せる力が十分すぎるほどあるからこそ、哲学的なセリフを並べた会話パートが物足りなく感じる。後半に進むにつれてその傾向は強くなり、物語のトーンが内省的になると映画のテンション自体落ちてしまうのは残念だ。終わってみると、寺島しのぶのパート必要だったっけ?

芳根京子はあらゆるライフステージを演じる大車輪の活躍。無邪気な子どもから塞ぎ込んだ女性、成熟したアーティスト…。とある場面(海辺の小屋です)で見せる「母」の表情がすばらしい。あと、時折挟まれるインタビュー風の無名俳優の使い方がうまい。あそこだけドキュメンタリータッチで面白かった。

冒頭のクラブの場面はそのまんまルカ・グァダニーノ版「サスペリア 」のイメージだし、そのあとの近未来SF(香川県庁がカッコよく見える)は「ブレードランナー2049」や「私が、生きる肌」を思わせる質感。その小さなスケール感をチープと見る人もいるだろうけど、独特の禍々しさがあって好きでした。

中盤以降は賛否分かれるでしょうね。前半のテイストの継続を期待すると特に。というか、これをやりたいんだったら、前半そこまで厚みを持たせる必要あった?と。ばらまいた伏線の回収にもたついたり、会話で話の流れが停滞したり、イマイチ切れ味がない。「蜜蜂と遠雷」でも思ったが話運びが重い。

実存に迫る壮大なテーマ設定と、物語が展開するステージの小ささのギャップを活かすのであれば、個人的にはもっとタイトな尺でシュアにまとめてくれた方がスッキリ見られたのではと。終盤は「いなくなれ、群青」を思い出す。正直、描かれることに興味は持てなかったが、映像への興味で最後まで見れた。

「クワイエット・プレイス 破られた沈黙」感想

f:id:StarSpangledMan:20210624222653j:image

クワイエット・プレイス 破られた沈黙、みた。いやぁ〜、面白かったですね。人間とモンスターが同じ画角に収まる、そのサイズの対比と切迫感にゾクゾクくる。ジャイモン・フンスーのキャラがカッコ良かったので、もっと見たかった。そして、リーガンが最高。マーカスは超絶戦犯だったが…。

冒頭の「DAY 1」のシークエンスは長回し風で臨場感があった。ジェットコースターに乗っているようだ。そのあとの展開にほとんど繋がっていない気はしたが。キリアン・マーフィーがよかった。リーガンがとても魅力的なのに対し、マーカスの言動のちぐはぐさ…。終盤の展開の拡げ方はうまくないと思う。