映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「20歳のソウル」感想

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20歳のソウル、観た。野球部のために応援歌を作った少年は、恩師のような先生になろうと誓うが…。いわゆる「難病モノ」であり、お世辞にも話のテンポが良いとは言えない。しかし、これが実話であり、こんなにも愛に囲まれて生きた少年がたしかにいた、という事実にどうしても心動かされてしまうのだ。

尾野真千子が本領を発揮している。わが子のしあわせを願い、寄り添い続ける。台所で朝ごはん作るだけでなぜか湿っぽく切ない雰囲気を出せるのは彼女ぐらいだろう。良くも悪くも主演の神尾楓珠よりも印象に残った。また、佐藤浩市もよかったと思う。あまり子どもと絡む演技の印象がないので新鮮。

前田航基や若林時英はこの手の映画の脇を固めるのに欠かせない役者になった。だが、あまり後半の物語に絡まないのが残念だ。ジャニーズJr.の佐野晶哉はもうちょっと大人になったら良い役者になる気がしている。マット・スミスみたいな顔してるので影のある役なんてどうだろつ。ピアノ弾けるのも魅力。

何度もガンが襲ってくる。残された時間は少ないかもしれない。そんなとき、主人公は「自分の音楽を残す」ことに力を注ぐ。横で心配する彼女が「もっと一緒の時間がほしい」とこぼしたとしても。共感はできないが、彼の世界が垣間見える良いシーンだと思った。「Jasmine」誕生の話もすばらしい。

だが、しかし、個人的にはお葬式のシーンで終わっても良かったかな?と思う。何度か映画の中で「ここで終われたでしょ」のタイミングがあるのが残念だった。着地点に向かってまっすぐお話が進まないので、いまいちスッキリしない。

「ハケンアニメ!」感想

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ハケンアニメ!、観た。キャリア悩み中の自分にグサグサ刺さりました。吉岡里帆が最初のカットからどよーんとした背中でペンタブに向かうのがもう最高ですね。静かに燃える暑苦しい女を演じさせたら彼女の右に出る者はいない。一人でできる仕事なんてない。敵だと思ってたら…的展開もアツい。

モノづくりの現場。ギョーカイあるある的な過酷労働の美化は突っ込まれるだろうとは思った。なにかと手弁当で動かざるを得ない環境のようにも思う。ただ、いざとなったら拝み倒して進めないといけない時、胃がギュッとするような判断迫られること、どこでもあるよな。瞳監督に自分を重ねた。

ただ、ここに登場するような人たちのように、自分の仕事に誇り持ててるのかな?一生懸命やれてるかな?みたいなことは頭の中をぐるぐると回った。「やりがい」で頑張るのって時として危ういこともあるけど、やっぱり彼らは幸せそうに見える。ただ、基本的に仕事は苦しいものなんだと描いてるのは良い。

吉岡里帆が演じる瞳監督、あんまり笑わないんですよね。そりゃあのハイプレッシャーな現場でドタバタして、笑顔で仕事しろってのが無理だけど。だからこそ、隣の家の少年のくだりは特別なのだ。そして、彼女はどんどん成長する。自分の意見を言う。歩き方が変わってくる。目付きも違う。かっこいい。

「見えない目撃者」で出会った「泥臭くてカッコいい吉岡里帆」をもう一回見られた。これだけで嬉しい。柄本佑は言わずもがな。色気と余裕がすごい。尾野真千子中村倫也のやり合いも良い。口には出さない信頼関係。そして、小野花梨。フツーの人っぽいのに才能あふれる。「こんな人いそう」感すごい。

ただ「視聴率を競い合う」はめんどくさい説明省こうとした結果、逆にリアリティを欠いていたかな。配信のランキングやSNSのトレンドでも描けたはず。円盤の話は難しいにしても。ふたりの監督の葛藤は魅力的だが、その分、「覇権を狙う」対立軸はあまり機能していない。だって本人の目標じゃないから。

結局、モノづくりの話なので「いいもの作りたい」が最後に勝る。監督たちの戦いは「少しでも視聴率を伸ばすこと」ではないのだ。でも、それだけじゃ足りないし、やりたいことを勝ち取るためにやらなきゃいけないものがいろいろあって…といったあたりのドラマは、CPのふたりが担っている。

アニメパートのクオリティはさすが東映アニメーションが関わるだけある。フツーに面白い。「SHIROBAKO」「映像研には手を出すな!」「映画大好きポンポさん」「サマーフィルムにのって」などに登場する数ある「作中劇」の中でもきちんと「見たい!」と思わせる内容。全部観てないのに泣いたもん。

あと仕事は辛いのが前提の作品なので「辛くて泣く」シーンがないのは個人的に評価高いです。もちろん、感情が昂ったり泣いたりする場面はあるけど、それは「辛いから」ではない。そういう安易さは排除されていた。瞳監督がホンキで怒る場面はしびれた。役者は声だなと思った。もう一回見たい作品。

「シン・ウルトラマン」感想

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シン・ウルトラマン、観た。一週間寝かせてもうまく感想まとまらず。シン・ゴジラの精密なセリフまわしや同時代性はどこへやら。作り手の趣味やこだわりは全面に出ているが、だったらもっとちゃんと撮れよと。チグハグは否めないが、外星人のロマンや銀色の巨人の美しさには共感。でも続編は観たい。

ザラブとメフィラスのエピソードは本当に面白い。メフィラスというキャラの広がりは特にすばらしい。山本耕史の胡散臭い演技もインパクト抜群。間違いなくこの作品でいちばん輝いていた。しかし、だからこそザラブのパートいる?。外星人の話ふたつも要らないのでは。作り手が好きなのかな?と。

禍特隊まわりに期待していた群像劇は全く機能せず。巨災隊の鮮やかなキャラ捌きは何処へ…。彼らもテンプレ的と言えばテンプレ的なのだけど、それ以上の肉付けと愛おしさがあった。有岡大貴と早見あかりのキャラは背景やチームの位置付けがわかりにくかったなあ。勿体ない。もっと好きになりたかった。

散々言われてるが神永がどんな人間なのか分かりにくい。というか情報がほぼない。いっそ「君の名は。」スタイルで最初からウルトラマンでもよかった。終盤でやりたいことはわかるけど…。まあでも、部分部分でブチ上がることもあるから、憎まない作品でもある。ちょいレトロなSF感強めなのも好きだし。

正直、ウルトラマンを二時間の映画にまとめるならここをポイントにするだろうな、みたいな事前の予想はまあまあ当たってた。だからこそ、だったらなぜそうなるの?みたいな自分の理想とのギャップを感じてしまい。「庵野っぽいカット」をかき集めた編集もドラマに寄与してない。人の演出もハマらない。

禍特隊まわりだと田中哲司がいい味出している。ザラブと対峙した時の第一声はカッコよかった。ああいうスーツのおじさんと宇宙人がうす暗い会議室でコソコソ交渉する雰囲気は好き。昭和の特撮のエッセンスをそのまま令和に持ってくる面白さがあった。いろんな怪獣が出てくる楽しさもわかる。

長澤まさみまわりの演出のしょーもなさには失笑しかない。アニメっぽいキャラ造形をスーツ着た大人の女性に演じさせても妙なギャップが出るし、お色気ギャグやっても生々しさが出て笑えない。その方向性でやるならうまく撮ってほしい。それでスベるなよと。脚本の意図を監督は汲み取れてるのか…?

「マイ・ニューヨーク・ダイアリー」感想

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マイ・ニューヨーク・ダイアリー、観た。マーガレット・クアリー演じる主人公の初々しくも芯の強いキャラが素敵。しかしそれ以上にシガニー・ウィーバーの渋い演技よ。ただしこの映画ならではの色は薄かったかな。「ライ麦畑でつかまえて」ってそんなに面白かったかなあ。思春期に読めば違ったのか…。

「私ときどきレッサーパンダ」感想

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私ときどきレッサーパンダ、観た。傑作!ディズニー/ピクサーの「家族信仰」に楔を打ち込むエポックメイキング的作品。親の目から逃げられない息苦しさや、身体的変化への嫌悪を「どでかいレッサーパンダに変身する」というポップな設定で軽やかにスケッチ。ゼロ年代の空気も良い。Backstreet Boys

ナードな仲間たちとの痛々しいノリをそれでも肯定的に描いている。女の子の性欲もファミリー向け映画では許される限りで生々しく描いているのではないか。気持ちが乗っかっちゃってラクガキがどんどん派手になっていくのも、それが見つかってドタバタするのも、笑えるけど、同時に泣ける。

矢継ぎ早にギャグを詰め込んでいくテンションや、目がキラキラ〜って輝く様は、日本のアニメにツボが近いと思った。一部「オトナ帝国」を思い出す場面があったが、さすがにそれは思い込みか。それにしてもお母さんの無神経っぷりはなかなか。校庭侵入して「ナプキン忘れたわよ〜」はさすがにねえよ笑

舞台はトロント。あくまで主人公の目線から見える世界を描くから、ルーツは中華系だけれど、ガンガンにダンサブルな音楽が鳴り響く。出っ歯でメガネもアジア人のステレオタイプの範囲な気もするけど、美男美女が登場しないこの物語のキャラデザにおいて、ぎりぎり可愛らしいデフォルメとして許容範囲。

繰り返し、しつこいほどに「家族の絆」を描いてきたディズニー/ピクサーにおいて、この物語はその枠の中で、できる限り遠くまで羽ばたこうとしたようだ。親戚のめんどくさいしがらみや伝統とやらにはさして興味を示さないが、それでも、自らのルーツへの誇りや敬意は隠さない。うまい塩梅だと思う。

クライマックスの思わぬ見せ場。パーソナルかつミニマムなスケールのこの映画において、予想外の飛躍を見せるアクションに、俺は作り手のプライドを見た。私たちはこんな力を持ってる、受け継いでるんだ!と。もちろん、普遍的な見方もできる。内なるレッサーパンダの解放。とても好きなシーンだ。

「死刑にいたる病」感想

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死刑にいたる病、観た。目玉がビー玉になった阿部サダヲが怖すぎる。人間の真理やタブーへの踏み込みは期待ほどではなく、若干息切れはするものの、最後まで楽しめた。ガラスを隔ているのにどんどん飲み込まれていく面会の場面がほんとうに面白い。ワクワクする。宮崎優という役者を知れた喜びも。

シリアルキラーの造形に関しては、阿部サダヲの貢献がかなりの部分を占めている。行動原理はわりと典型的で、この作品だから新しいという要素は見当たらなかった。パン屋のおじさんなのは面白かったけど。せっかくなら閉店後の店内で殺人してたら愉快なのに…とは思った。

人体破壊描写は気合が入っている。そこそこ入りのいいシアターで見たけど、上映後のエスカレーターで結構「グロい」「描写がキツい」という声を聞いた。だってこれPG12ですよ。「孤狼の血」シリーズがR15なのに。直接的な切断シーンがなければオーケーなのだろうか。ますます基準がわからなくなる。

面会シーン自体はそこまでアクロバティックに演出を変えないんだけど、その間の過程で微妙な「変化」を描いたり、新たな疑問を追加したりすることで、二人が改めて出会ったときの緊張感を高めている。雅也が猫背になり、目つきは鋭く、やたらと爪に目を配ったり…といった具合である。

「マイスモールランド」感想

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マイスモールランド、観た。ことしベストの一本。在留資格を失ったクルド人家族の生活を描く。優しさとか思いやりの話ではない。サーリャたちに寄り添う多くの「善良」な市民が登場するが、そもそもこの国の制度を支持しているのは私たち自身なのだ。嵐莉菜と奥平大兼のみずみずしい演技も光る。傑作!

コンビニでバイトしてると「日本語上手ねえ」いつお国に帰るの?」なんて品よく声をかける婆さんがいる。善意のつもりで。サーリャはワールドカップで日本代表を堂々と応援できなかった(演者の実体験らしい)。彼女はこの国で育ち、この国で夢を叶えようとしているのに。「難民」として除外される。

終盤、チョーラク一家に迫られる「判断」のあまりのグロテスクさに吐き気を催すが、そんなこと気にせず、彼らが働く工場で作られた製品や、コンビニのサービスを受けてヘーキな顔をしている。その中に自分も含まれるのだ。人権問題として理解はしても、あえて何か動くなんて考えたことなかったよ正直。

サーリャと聡太の距離感。初々しい青春の物語として見ることもできる。特にチークキスをめぐるくだりはドキドキしてしまう。けど、ここでもやはりサーリャが「難民」である事実が頭をもたげる。好きな人と一緒にいることすらままならない。この理不尽に大人は立ち向かわず、保身に走ってしまう。

じゃあ自分が藤井隆の立場でコンビニの店長だったら?ってのは考えてしまうんだよな。おかしいのは制度であり、その罪はそれをほったらかしにしている国民にあるのだが。難民申請が却下される場面は非常にショッキングだ。めんどくさそうな役人(田村健太郎)のツラがムカつくが、他人事ではない。

在日クルド人の風俗に触れられるのは貴重だ。あのチキン?がおいしそう。一方、家族4人でたのしそうにラーメンを「すする」場面も切ない。ずいぶん自然だなあと思ったら、キャスト全員本当の家族だった。みんなチャーミングで愛おしいんだよなあ。だからこそ、この国の現状へのショックも大きい。