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さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「男はつらいよ 寅次郎忘れな草」感想:寅さんとリリー、二羽の旅鴉

こんにちは。じゅぺです。

今回は「男はつらいよ 寅次郎忘れな草」について。

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男はつらいよ 寅次郎忘れな草」は「男はつらいよ」シリーズの第11作目です。人気キャラクター・リリーが初登場します。観客動員数もシリーズ第2位だそうですが、たしかにこれまで見てきた中でも(公開順に見始めて、いま11作目)屈指の面白さでした。

今回のマドンナはリリー(浅丘ルリ子)。彼女は場末のキャバレーで誰も聴かない歌をうたっています。寅さんとリリーは似た者同士。行くあてもなくふらふらとよその土地を渡り歩く旅鴉の二人は、旅先で出会い、意気投合することになるのです。

しかし、寅さんとリリーはどこかが違います。寅さんは言います。「女の一人旅は辛いからね」と。そうかもしれません。寅さんには帰る家があるけど、リリーには帰る家がないのです。さくらたちが寅さんの恋愛遍歴を振り返りながら談笑している脇でリリーがつぶやいた言葉も鋭く胸に刺さります。「いいなあ、何百万遍も惚れて、何百万遍も振られたいなあ」。寅さんは何度も恋をして、そのたびに振られるけれど、彼は彼一人で生きていけます。渡世人の悲しい運命を自覚し、諦めの境地に達しているところがあります。一方、リリーはこのセリフの通り、人に求められることを欲していて、苦しい生活から抜け出すために誰かに頼りたいと思っている。寅さんは自分の居場所が葛飾柴又にあること確認するために全国を飛び回っている節があるけれど、リリーははじめから居場所がなくて、安らかに眠れる家を探して旅をしているように思えます。彼女には彼女の苦しみがあり、寅さんとは絶対に交わらない部分もあるのです。どうにもならない辛さをごまかすためにお酒に頼ってしまう姿が切なくて、惹かれました。リリーの底知れぬ孤独に触れたような気がします。

「寅次郎忘れな草」は珍しく寅さんが恋しない作品でもあります。しかし、クライマックスのあのとき、飛び出したリリーを寅さんが追いかけていたら、二人はどうなっていただろうとも思ってしまいました。五香の寿司屋で元気に働くリリーを見て、ホッとすると同時に、ちょっぴり寂しい気持ちになったのは僕だけでしょうか。なぜだか映画の冒頭、寅さんと出会ったときのすこし疲れたリリーの笑顔を思い出してしまいました。