「ハニーランド 永遠の谷」感想
ハニーランド 永遠の谷、みた。北マケドニアの山奥で老母とふたりで暮らす自然養蜂家を追うドキュメンタリー。トルコ人一家が隣にやってきたことから話は急転する。歪んだ父性と目先の利益に飛びつく強欲さが平穏な親子のくらしを破壊していく。ああ、これは世界から戦争なくならないわけだ…。傑作。
ポスターから大自然のくらしを追うゆったりしたドキュメンタリーを想像していたので、かなり面喰らいました。カメラの存在を感じさせない人物の佇まい、そしてあまりに劇的な展開に、製作側の介入を疑いたくなるが、3年半もの月日をかけて取材した結果と聞いて納得。よく撮ったなあ。
スコピエの街でハチミツを売り歩き、病で衰弱していく寝たきりの母を介護する日々。耳の遠い母にがなりながら会話する主人公の姿が微笑ましい。水道も電気も通らない世界で、ミツバチの世話をしながら、その人生を終える。モノに溢れたニッポンでくらす自分には想像もつかない…。
純粋な疑問として、ここにくらす人びとの幸せとは一体なんなのだろうと思った。ほとんど「社会」すら存在しない村(それはトルコ人家族の介入で壊されるが)で、自己実現や承認欲求の悩みは生まれるのだろうか。他者のじゃまが入らない、近くに居るのは家族だけの生活。
トルコ人家族の父親は、目先のお金に飛びつき、失敗を他人になすりつける無責任な男だ。冷静な息子の意見も聞き入れない。結果、彼らには「バチが当たる」のだ。しかし、好き勝手に自然を破壊した煽りは、主人公の生活を直撃する。「半分はわたしに、半分はあなたに」の想いは裏切られる。
崇高な理念がよく知りもしない他人の欲に破壊される。なんとも言えない無力感が鑑賞後に残った。しかもこれは劇映画ではなく、ドキュメンタリーなのだ。ことしのドキュメンタリーは「さよならテレビ」「春を告げる町」「はりぼて」「なぜ君は総理大臣になれないのか」「僕たちの嘘と真実」「空に聞く」と豊作だったな〜。