映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「少年の君」感想

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少年の君、観た。ことしの映画でいちばんしんどい。北京大学を目指すいじめられっ子のチェンと、彼女を守ろうとするチンピラのシャオベイ。底なしの地獄で見つけた小さな幸せすら、あっさりと踏み躙られる。大人や社会が頼りにならない、徹底した「個」の物語に(ならざるを得ないのに)憤りを感じる。

正直、普段はあまりこういう「不幸のサイクル」的な映画は好きではないのだけど、「少年の君」はとても面白く観た。冒頭の同級生の自殺からはじまり、主人公に矛先が向いた後のいじめのエグさ、親からプレッシャーを受け、どこか壊れてしまった子どもたち。みんな幸せそうには見えない。

中国といえばどんどん豊かになっていく国のイメージだけど、その裏では過度な競争に潰されてしまったり、取り残されてしまったりする人もいる。高度経済成長期の日本でも「新幹線大爆破」や「上を向いて歩こう」があったけど、これも成長の歪みの結果みたいな映画ではある。

中国映画は当局の検閲があるので、「いじめは世界的な問題です」とか「共産党はいじめ問題に取り組んでいます」なんてエクスキューズを付けているけど、逆説的にこの映画が、現代中国(に限った話でもないのだが)の病理を描いた作品であると白状しているようなものだと思う。

シャオベイ、最初は嫌なチンピラだな〜と思ったけど、だんだん表情が柔らかくなっていく。そして、チェン(チョウ・ドンユィ)がとにかく良い。ボロボロになった彼女のしゃくりあげるような哭き方ね…。焦りを見せず達観した雰囲気が、親の圧に苦しむいじめっ子たちの神経を逆撫でするのだろう。