映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「エジソンズ・ゲーム」感想

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エジソンズ・ゲーム、みた。直流送電のエジソンと交流送電のウェイスティングハウスの確執を描く。いわゆる電流戦争だが、どちらが負けるのか未来の僕たちは結末を知っている。ディテールは知らなかったので「なるほど、そうだったんだ」となるところも多かったけど、イマイチ引きが足りなかったな〜。

交流送電に対するエジソンネガティブキャンペーンがなかなか陰湿で笑ってしまった。馬が可哀想だ。J・P・モルガンやジョージ・ウェスティングハウスニコラ・テスラなど今でも大企業がその名を冠する偉人たちが登場する。彼らが〈未来〉を作ってきたのだと考えると感慨深い。

でも、なんかこう、点と点が繋がって線になりやがて太い歴史の流れになっていく会館みたいなものが足りないのである。若くして亡くなったエジソンの妻の生きた証が刻まれた蓄音機の使い方は良かったのに途中で放ったらかしになるし、シカゴ万博とその裏の皮肉な歴史的事実の対比も弱い。噛み合わない。

ベネディクト・カンバーバッチマイケル・シャノン、それからトム・ホランド、キャサリン・ウォーターストーン、ニコラス・ホルトと芸達者なキャストが揃っているのでみんなそれなりに魅力的だけど、登場人物多いせいか掘り下げも甘い。主役二人の絡みもぬるっとしてたなあ。

この手の伝記映画って、着地点が肝だと思うんだけど、残念ながら「エジソンズ・ゲーム」は休日のフードコートで席を探してウロウロする人みたいに、いつまでたってもちょうどいい場所を見つけることが出来ない。3回ぐらい終われるところ逃してたと思う。「フォードvsフェラーリ」を思い出した。

「波よ聞いてくれ」全話感想

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波よ聞いてくれ、全話見た。地元FM局の麻藤ディレクターにスカウトされたカレー屋の店員・鼓田ミナレの奮闘。金借りて逃げた元カレ、部屋から腐臭を放つ隣人、兄妹の喧嘩に巻き込まれる元職場などアクシデントだらけのミナレの人生はラジオそのもの。最終回は胆振東部地震を描き、ラジオの核心に迫る。

最初から最後までハイテンション。もう頭の中どうなってるのよって言いたくなるスピードでまくし立てるミナレ。そんな彼女が時にツッコミ役に回ってしまう、個性たっぷりのラジオやボイジャーの人びと。肝が座りすぎている百戦錬磨の麻藤や大人しそうに見えてズレてる瑞穂などなど…。

最終回は「リスナーに寄り添う」ラジオのあり方が問われる内容。これまでのコミカルな展開に比べ、緊急事態を扱う最終回は少々異質ではある。しかし、どんな時でもそばに居てくれるラジオの魅力、なぜ時代が変わっても愛されるのか?が詰め込まれている回だった。それぞれの覚悟に胸が熱くなる。

「ドラマスペシャル スイッチ」感想

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ドラマスペシャル スイッチ、みた。坂元裕二×月川翔。元恋人の検事と弁護士がとある連続暴行犯をめぐり敵同士となり…。ていねいに1枚1枚積み重ねていく連ドラに比べてエンタメに振り切っているが、いつもの坂元節も健在。コミカルな前半からツイストの効いたシリアスな後編の展開が良い。面白かった!

阿部サダヲ松たか子のやり取りはリズミカルで心地よい。微妙な不幸を呪い合う中華テーブルを囲っての喧嘩に始まり、オリーブオイルと塩をめぐる目線の戦い、カラオケでの「ナシゴレン」とその後の会話、クライマックスの長回しハイボールの氷のところ面白いなと思ったらアクシデントだったみたい。

坂元裕二の連ドラ、正直テレビで見るには重たくてしんどいなと思うところもあったので、これぐらい軽妙なラブコメにしてくれた方がいいなと思ってしまったりもする。月川翔とのタッグはなぜ?だったけど、中盤以降の展開に納得。しれっと醍醐虎汰朗も登場。一連托生の男女は彼の十八番だと思う。

「スーパーのレジで早く進むと思った列に並ぶと決まって隣の列の方がスムーズ」のくだりは大好き。人生とは、往往にしてそういうものである、と。スイッチの意味も、最後にニヤリとさせる仕掛けがあって良い。日曜の夜にさらっと見るのにちょうどいい作品。もっと肉付けして映画でも見てみたい内容。

「午後8時の訪問者」感想

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午後8時の訪問者、みた。傑作!ダルデンヌ兄弟にハマった。これは罪悪感をめぐる物語だ。あの時助けに応えていれば…という気持ちから町医者のジェニーは方々を訪ね、変死した女性の名前を探す。なかなかにハードボイルド。人物の移動に心情と関係性の変化を描くその演出手腕に唸ってしまった。

クルマの移動シーンが多い。ジェニーはハンドルを握りながら患者の電話に答える。なんて事はないのだが、いかにもな町医者の日常にグッと引き込まれる。診療所で寝泊まりし、毎日の往診を繰り返す彼女の姿を観察するだけでも楽しい。一方で事件の真相をめぐる〈捜査〉もまたエキサイティング。

行く先々で嫌がられる笑 ハードボイルドと言ったけど、ジェニーは顔に出さない人なので、少々ぶっきらぼうな印象を与える。それが罪悪感を抱える人には刺激になるのである。胃痛のブライアンに、トレーラーの老人の息子、被害者の関係者のチンピラ。見透かされ、非難されているようで、怒ってしまう。

全場面おもしろいんだけど、特にお気に入りはブライアンの部屋での時点。ジェニーの質問に答えず、スマホのゲームに熱中しながら、あっちを向いたりこっちを向いたり、目を合わせずに姿勢を変える。この交わらなさ!ワンカットに収めるのが良い。ぴたっと人物に寄り付くカメラの動きも心地よい。好き。

罪悪感を抱えた人間は、その受け止めたくない事実にどうリアクションするのか。その観点で見るとよりおもしろいんと思うんですよねえ。もっと他の作品見なくては。

「くちびるに歌を」感想

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くちびるに歌を、みた。東京から音楽教師として赴任したピアニスト。沸き立つ生徒だったが、彼女には暗い過去があり…。事情を抱える先生と生徒が歌をとおして絆を育む過程は〈教科書通り〉だが、やり抜くのも逆に難しいと思う。「マイバラード」が好きなので良い使い方してくれて嬉しい。これぞ合唱!

2時間12分はちょっと長い。2時間以内に収めてくれれば…。生徒たちのサイドストーリーが前面に出たり後退したり…柏木先生がメインではあるのだが。恒松祐里葵わかなが出ている。恒松祐里はパジャマ姿でベッドをゴロゴロしながら友だちに電話するのが様になる。あのリラックス感はすごいよ。

自閉症役の渡辺大知。「寝ても覚めても」や「ギャングース」のキャスティングの元ネタはこれか?やはりこの人は芸達者だ。桐谷健太の暑苦しい体育教師もっと見たかったな、木村文乃が珍しくふつうに幸せそうだな、とか。5年前の映画なので配役にも見所がある。そしてなにより主演の新垣結衣

〈あの夜〉以来、ピアノと本格的に向き合い、ついに始まりの汽笛を鳴らした柏木先生が、その演奏を聴いて駆けつけた生徒たちに囲まれながら、「私がピアノを弾く意味」を思い出す場面。カットが切り替わる直前にその目に宿った光を見逃さなかった。この後から彼女の表情が変わる。素晴らしい演技!

中学生当時は合唱なんてめんどくさいものやらせやがってと思ってたけど、大人になって振り返ってみると、悪くなかったかもなあと思ったりもします。聴くのが楽しい。みんな声が未完成で、男子の声変わり前の無理してる感じとか。使い方はアンジェラ・アキ「手紙」より「マイバラード」の方が合唱的。

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五島の景色がよかったですね。広い青空と海、さわやかな緑。青春!写真の場面は「サウンド・オブ・ミュージック」もしくは「二十四の瞳」でしょうか?

「サンダーロード」感想

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サンダーロード、みた。母を喪い神経衰弱の男が、家族に仕事に災難に巻き込まれていく。葬式で「涙のサンダーロード」を流そうとするがラジカセが壊れてうまくいかない、踊りもおどれない。この映画は終始そんな感じだ。不安を埋めるかのようにまくし立てるジム。笑いとシリアスのバランスが絶妙。

ジムのキャラが強いのはいいんだけど、ちょっとしつこい。最初から最後まで同じ調子、似たようなリアクション。冒頭の泣き芸は良かったけど、何度もやられるとねえ。空気読めなくて葬式のあいさつで喋りすぎたり、上司の前で怒りを制御できなかったり。彼自身は変わらない、変われない。

むしろ彼のまわりが目まぐるしく変化していく。最愛の母があの世に旅立つ、妻に三行半を突きつけられる、娘が学校で…。ヘラヘラ笑ってたらいきなりシリアスな場面(刃物の男が暴れるレストランに出動する…など)がはじまったり、コメディとサスペンスの落差が面白い。

「その手に触れるまで」感想

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その手に触れるまで、みた。ジハード主義に染まったアメッドは、恩師の殺害を企てて少年院に送られるが…。初デンヌだけど、めちゃくちゃ好み。ぴったりとアメッドに寄り添う手持ちカメラが、導師を盲信し、トラックを全力で走り、キスの誘いに微笑む彼の心の揺らぎを生々しく映す。大傑作!

若さゆえの純粋さと反抗心。大人が何かを言うたびに少年はどんどん意固地になっていく。子どもは大人の言うことなんて基本的に聞かないものである。壁を作ってしまった彼には、母の温もりも、ルイーズの恋心も響かない。一度凝り固まった心と思考がふたたび優しさを取り戻すことはあるのだろうか?

カットは細かく割らず、同じ空間の中で変化する関係性と心情をじっくりサスペンスフルに描く。少年が洗面所に立つだけで時間の予感がする。トラックを走り回るだけで不穏な空気が漂う。しかし、少年の視野の狭さが笑いに変わるときもある。歯ブラシの使い方はそうじゃないだろう笑 省略の編集も好き。

少年院の運動場の長回しや農場でのアメッドとルイーズの初々しいやり取りなんかめちゃくちゃいいよね。ふたりの会話を中心にしながら、後ろにいろんな人が動いていたり、常に絵に変化があるから単調にならない。一つひとつのカメラの動きに注目してしまった。さっき見た映画が緩かっただけになおさら。