「河内山宗俊」感想
河内山宗俊、みた。甘酒屋のお浪を救うため男たちが立ち上がる!チャンバラの末に打ち解ける宗俊と市之丞の気持ちよさ、あれよあれよと転がるコミカルな物語はやがてそのまま悲劇的なラストへの加速していく。怒涛の後半の転調が素晴らしく、逃げ回る三人を追う横移動が気持ちいい。最高。超絶大傑作!
「人情紙風船」は素材がボロ過ぎて話を終えなかったが、「丹下左膳餘話 百萬兩の壺」は言わずもがな、最高に面白かった。1930年代にこれだけウェルメイドかつ映画的な面白さに溢れる作品を撮れる監督がいたということ。山中貞雄が生きていれば…と思うのも分かる。戦争さえなければなあ…。
原節子って15歳から原節子だったんだ、と気づかされる。「丹下左膳餘話 百萬兩の壺」でもそうだったが、掛け合いのテンポの良さが光る。特に役者の間合いなんかはすごく現代的で、時代劇にありがちな臭みは少なく、むしろいまのコントっぽいなと思った。語彙が古くてちょっと耳が追い付かないが。
Amazonプライムの素材だと映像・音声ともにやはり質は悪く、お話に追いつくのに必死になってしまう。どうやら今年のTIFFで4Kデジタルリマスター版が上映されるらしいので、近いうちにBlu-ray化されるのを期待。山中貞雄BOX出してくれたら買います。
刀でグサグサ刺されて絶命する宗俊と、振り返ることなく姉を助けるため走り続ける広太郎…のショットで締めくくる。序盤の可愛らしさからの落差があまりに絶望的で、かつお浪の危機に目覚めた男たちがカッコいいクライマックス。テンション最高潮のまま終わる映画にハズレなし。めちゃ気に入りました。
「フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ」感想
フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ、面白かった。羽田空港に出現したガイラの異物感、人を喰らい服だけ吐き捨てる気持ち悪さ、夜の丸の内の戦闘の緊張感など見どころたくさんあった。学者と自衛隊のタッグは「シン・ゴジラ」に繋がるのか。オチは作劇を放棄したとしか思えない強引さだが…。
東宝怪獣映画といえば「白衣の博士と研究所」のイメージだけど、「シン・ゴジラ」はそれが「官僚と首相官邸」に置き換わっていたんだなと気づく。特撮のクオリティは「空の大怪獣 ラドン」がダントツだと思ってたけど、本作も素晴らしい。そこに「居る」不気味さは着ぐるみ特撮ならでは。
昭和の特撮の着ぐるみの妙な生々しさ、独特だよなあと思う。獣臭さが漂ってくるようだ。「ゴジラ」シリーズに比べると怪獣のサイズがハンパなので、どちらかというと害虫駆除作戦って感じ。このリアリティはやはり「シン・ゴジラ」に継承されてるんじゃないかなあ。
「おカネの切れ目は恋のはじまり」感想
おカネの切れ目が恋のはじまり、全話みた。彼がそこに居ることで却って現実の「不在」を、逆に劇中そこに居ないことで、彼がまだ「生きている」ことを気づかせてくれるドラマだった。三浦春馬と松岡茉優のチャーミングさがたっぷり詰まっている。できれば、ふたりの物語をもっと見たかった…。
TBS火曜22時枠でも「逃げ恥」に次ぐ傑作ラブコメになるんじゃないかという予感があっただけに、第1話、第2話、第3話とお話が面白くなるにつれて辛くなってしまった。思えば連ドラなんて初めから終わりが来ることはいつも分かっているのに、始まる前から終わるのが怖いドラマは初めてだった。
三浦春馬、本当に良かったなあ。いたずらっぽい笑顔、内に秘めた優しさがあふれ出てしまうその言動。明らかに常識からはズレているが、自分と違う価値観の人間は否定しない。遺作となってしまったが、彼の代表作のひとつに数えていいのでないか。ひさびさの連ドラ主演となった松岡茉優も最高。
お話のテンポが良く、三浦翔平に北村匠海、草刈正雄&キムラ緑子のパパママ、ファーストサマーウイカ、中村里帆、アインシュタインなどなど脇役もみんな愛おしい。慶太と玲子ならどんなハロウィンを過ごしただろう、クリスマスはふたりで迎えるのだろうな…とその先を考えたくなる。
「キューポラのある街」感想
キューポラのある街、みた。いまやベッドタウンの川口だが、当時は荒川を挟んで貧困世帯も住む工業地帯だった。そんな土地でもがく若者たちの物語。高度成長期の格差、朝鮮人差別などアクチュアルな問題も描かれ、当時の生々しい空気感を知る。吉永小百合が瑞々しい!ラストの疾走感も良い。
成長に取り残された人びとの目線は上を向いて歩こう」や「新幹線大爆破」でも描かれており(前者の主演はまたしても吉永小百合)、東京オリンピックの開催が必ずしも明るい面だけではなかったと知ることができる。一億総中流はあくまでスローガンだった。
酒浸りで仕事をする気のない父親に殴られたり、客に媚を売る母親を目撃してしまったり、結構重い。在日コリアンが希望を胸に北朝鮮に帰っていく様は、いま見ると複雑である。どちらに居ても幸せであったとは言えないだけに。しかし、クライマックスの自転車の疾走と締めの引きの絵で爽やかな後味に。
テーマ設定の(言い方悪いけど)お行儀の良さ、啓蒙的なお話運びは、これはこれで勉強になるしいいのだけど、はたして映画としてグッときたかというと微妙である。2020年という時代にこの映画を見たとき、必ずしもジュンの進む道のその先に希望があるとは限らないと知っているから。感想おしまい。
「映像研には手を出すな!」感想
映像観には手を出すな!面白かった。乃木坂三人の掛け合いはずっと見ていられる。ロボ研と映像研の掛け合いはアニメ版でもあったが、不器用で無邪気なオタクたちの交感に期せずしてホロリとさせられる。完ぺきだった伊藤沙莉版とは違う解釈で輝きを見せる齋藤飛鳥版浅草氏のキャラもいい。楽しい良作。
こないだもツイートしたけど金森氏を演じられる若手女優って実はなかなかいない。背が高くモデル体型なのになぜか少し窮屈そうな雰囲気を出すのはなかなか難しい。実写版ではいかり肩のパッド?が衣装に入っているようだけど、梅澤美波の立ち姿もハマってる。すこし足開いたり。相当研究してると思う。
山下美月もいい。ロボ研のオタクを無神経発言でグサグサ刺す場面、水崎氏のキャラがよく出ていて好きなのだけど、あそこを嫌みなく演じられるのがすごい。生来の陽のオーラで押し切ってる。圧倒的可愛さのおかげでちょっとトゲがあっても許されるのを無自覚かつ体感的に知っている人の振る舞いですよ。
浜辺美波は学園ドラマに客演するだけでもはや大物感を出せてしまうスターなのだけど、今回のキャスティングは品がなかった。話に絡ませる気がなく、完全に客寄せパンダである。一方、板垣瑞生と赤楚衛二のロボ研コンビはじめ脇役も光ってる。英勉演出のおかげか、みんなコッテリ演技で爪痕残してる。
小西桜子演じる生徒会長はドラマ版より人間味があってよかった。幼稚な優等生といったところ。「初恋」とのギャップがすごいなあ。福本莉子の八重歯、アイドルと並んでも小顔な桜田ひよりも良い。特に桜田ひよりは他の同世代俳優と比べても一段上の器用さがあると思った。感情のバリエーションが多い。
グレイス・エマは立ち姿でかっこいいオーラ出せる俳優さんだと思った。今回はジョーカー的立ち回りだが、悪役だけでなく、味方ポジションでも存在感発揮できそう。乃木坂の三人は荒削り(まだそこまでの繊細さは感じられない。英演出が求めてないのかもしれないが)だが、もっと他でも見てみたい。
話運びは若干バタついてて、細かく積み上げていく割には噛み合ってないんだけど、ラストカットが最高だったので満点。終わってほしいところで切ってくれる映画は問答無用で評価が上がる。しかし、いまをときめく乃木坂と浜辺美波の絡みはスクリーンで観たかった。いまを逃したらもうチャンスないのに!
この手の映画はエンディングもいい。「ファンタスティック3色パン」も可愛らしくてハマってた。感想おしまい。
「眠る虫」感想
眠る虫、みた。謎の鼻歌に誘われたままバスに乗り込んだ佳那子は知らない街に迷い込み…。すべてが完ぺきとは行かないが面白い映画だった。生と死、終わりと始まりの境界の解体。過去・現在・未来が並行して存在する概念はA・ウィーラセタクン「ブンミおじさんの森」を連想。これは必見!
上映後トークショーでも触れられてたけど、とにかくバスの「車窓」がいいですね。流れる景色を見て、降りることのない場所に住む人々の生活や、土地の歴史に想いを馳せる。そしてバスに同乗する客たちの会話。なぜ耳をそば立てて聴きたくなるんですよね。監督はバス好きなんだろうなあ。
このままずっとこのバスに乗り続けたらどこへ着くんだろう。そう考えたことは誰にでもあるはず。ゆえに真っ暗闇の終点にポツリと停車するバスのショットはドキッとする。この映画はゆるく感覚的な映像の中に突然死を予感させるようなカットを挟むので油断ならない。階段を落ちるおじいさんとか。
このままずっとこのバスに乗り続けたらどこへ着くんだろう。そう考えたことは誰にでもあるはず。ゆえに真っ暗闇の終点にポツリと停車するバスのショットはドキッとする。この映画はゆるく感覚的な映像の中に突然死を予感させるようなカットを挟むので油断ならない。階段を落ちるおじいさんとか。
「エマ、愛の罠」感想
エマ、愛の罠、みた。破綻した夫婦生活を送るダンサーが愛に奔放に生きる様を描く。G・ノエ「CLIMAX」のようなダンスは見応えあり。ただ宣伝で言うほど不道徳に感じず、むしろ彼女なりの支配への抵抗と愛の表現なのだと思った。行動の理由は分かりきっているのでサスペンスはなく。世評ほど乗れず。