「アナザーラウンド」感想
アナザーラウンド、観た。冴えない中年教師が、職場の仲間といっしょに「ほろ酔いで仕事をすればうまくいくのではないか」と実験をはじめる…。たしかに考えたことあるけど、その年でホントにやるなよ!って思うけど、バカバカしさとおじさんの切実さのバランスが絶妙でした。居酒屋行きて〜〜。
あまり捻ったことは言っていない。飲んでも飲まれるな、なんて、お酒を始めた頃に失敗して学ぶべき(と言ってもそれが難しいのだが)ことだろう。しかし、本作がこれだけ虚しいのに煌めいているのは、さまざまな行動が制限されるコロナ禍に於いて、懐古的な輝きを放っているからかもしれない。
あまり捻ったことは言っていない。飲んでも飲まれるな、なんて、お酒を始めた頃に失敗して学ぶべき(と言ってもそれが難しいのだが)ことだろう。しかし、本作がこれだけ虚しいのに煌めいているのは、さまざまな行動が制限されるコロナ禍に於いて、懐古的な輝きを放っているからかもしれない。
終盤のお話の畳み方は、ちょっと性急な気がしたし、わりと主人公に都合がいい気がしたけど、それでも、あのラストに繋がると思えば、肯定したくなる。お酒に逃げちゃダメだけど、お酒が祝福をカラフルに彩ってくれるのも事実だ。ハーモニー・コリン「ビーチ・バム」を思い出す居心地の良さ。
Eテレ「私の欠片(かけら)と、東京の断片」
岸政彦の「生活史」プロジェクトを追った「私の欠片(かけら)と、東京の断片」も観たけど、とても興味深かったですね。彼のエッセイ「断片的なものの社会学」がわりと好きなので、パーソナルヒストリーをあるがままに尊重する考え方に、なぜか安らぎを覚えた。
あくまで研究の対象として調査はするけれど、異なる他者が共存する、あり方そのものの価値を改めて尊いものとして受け止める、個々の存在をあるがままに肯定し、余計な解釈や意味づけを与えない…という態度は、ほんとうの意味での多様性に近いのでは、とすら思った。
ただ、一時間の番組内で紹介される彼らのヒストリーは断片的で、あくまで岸政彦の姿勢を紹介する、このたび刊行された「東京の生活史」の補助線的な内容だなとは思った。もう少しくわしく見たい、食い足りない…というのは正直なところだ。本読めばいいんでしょうけど。
ノーナレ「お父さんのねぶたがいちばん好き」(NHKドキュメンタリー)
NHKのノーナレ「お父さんのねぶたがいちばん好き」がすばらしかった!最近映画館で観たどの映画よりも好き。ねぶたの町で生まれ育った10歳の女の子を追うドキュメンタリー。コロナ禍で二度目の中止を迎えたねぶた祭り。それでも希望の灯は消えないんだと確信するラスト!
このドキュメンタリーの主人公である「じゅんちゃん」は、ねぶたを作る「ねぶた師」の娘だ。ほんとにねぶたが好きなんだなあと思わされる。そして、ねぶた祭りが当たり前にある町の景色(といっても今年は去年に引き続き中止になってしまったが)が美しい。「ねぶた小屋は夢の国」だって!
「今年こそはお父さんのねぶたが見られるんだ!」と目を輝かせるじゅんちゃん。中止が決まったと知った彼女の涙には胸を締めつけられる。しかし、こんな時でも…とお父さんがはじめた試み。ラストの多幸感に胸躍る。どうか来年はこの少女が笑顔で過ごせる夏であってほしいと切に願ってしまうのだった。
「レミニセンス」感想
レミニセンス、観た。水没したマイアミのビジュアルがすばらしい。謎めいた美女をめぐる物語はどこかレトロで、あまり新鮮味はないのだけど、たまにはいいよね。ヒュー・ジャックマンとレベッカ・ファーガソンの座組は豪華だが、変にノーラン感を出さず、低予算SFの枠で作った方がよかったのでは。
大作風の宣伝をしたせいで、変に観客の期待を煽ってしまったのは否めず、こじんまりと作ってくれたら「プリデスティネーション」的なサプライズ感を持って受け止められたのでは。もちろん、堤防の外側に追いやられた人びとのスラムの質感や、水浸しの街路のセットはこの規模の映画じゃないと無理だが。
基本的な骨組みはフィルム・ノワールであり、また、そこにSF映画的なエッセンスを付け足すのは「ブレードランナー」ですでに答えが出てしまっているので、どうしても既視感は拭えない。設定やストーリーも緻密とは言い難い(セント・ジョーのくだり雑過ぎない?)けど、何度も言うように世界観が良い。
ヒュー・ジャックマン演じるニックは過去に囚われた愚かな男だが、対するメイ(レベッカ・ファーガソン)に「もっとこの人のことを知りたい」と思わせる、不思議な引力が備わっているおかげで、なんとか主人公として納得しながら見ることができた。一瞬で一目惚れするのは笑っちゃったけど。
「パリ、テキサス」感想
「パリ、テキサス」観た。荒野をさすらう記憶喪失の男・トラヴィス。弟に連れられ、息子と再会するが…。まっさらな砂漠が解放的で、また、空っぽの寂しさもある。所狭しと高層ビルの立ち並ぶヒューストンとは対照的だ。トラヴィスにはもう「漂う」選択しか残されていないのかなあ。
赤のモチーフが印象的だ。砂漠をさまようトラヴィスのキャップ。息子と旅をするときは揃って赤い服を着る。再会したジェーンはピンクのセーターを身に纏っていたし、トラヴィスが旅に出るきっかけになる、アンとの会話シーンでは、赤い光がふたりの顔を照らしていた。
ハンターがトラヴィスについて行きたくなる理由、アンの会話を聞いてしまったり、ほんとうの母に会いたくなったり、いろいろあるんだろうけど、トラヴィスのカギカッコ付きの「自由さ」に惹かれたのではないか、と思う。帰り道、道路を挟んで向かいの歩道を並んで歩くたのしさ!
トラヴィスが喋り出すまでに30分近く尺をつかっている笑 最終的な彼の選択は、もっとやりようがあっただろうとは思う。しかし、みんなして「今更それ言われてもなぁ…」ってことを言い出すし、時間の経過で癒やされることもあれば、永遠に失われてしまうものもあって。トラヴィスの愛とは?を考える。
ヒューストンの高速道路を走るラストカットがいい。その直前の夕日も美しかった。車の流れの中に埋もれていく。もう彼には会えないのかもしれないけど、きっとどこかで生きているんだろうとは思う。とても良質なロードムービーを見られた!
「ミステリー・トレイン」感想
ミステリー・トレイン、観た。エルヴィス・プレスリーの聖地メンフィスを舞台に、とあるホテルですれ違う三組を描く。銃声のくだりで引っ張って引っ張って…それかい!ってなるラストカット。「そんなもんでしょ?」なスカし方に、ジャームッシュの洒落っ気を感じて惚れる。永瀬正敏のクソガキ感最高!
あらすじにまとめると本当にどうでもいいストーリー。しかし、それを最高におもしろい「ジャームッシュ色」に染める。彼にしかなし得ない芸当だ。「ファー・フロム・ヨコハマ」の永瀬正敏&工藤夕貴のカップルがすばらしい。工藤夕貴の奔放ながら芯のしっかりした愛嬌。対する永瀬正敏のクールな幼さ。
永瀬正敏のジッポ裁き!タバコに火を着けてからポケットに放り込むまでの見事な流れ。おまえ相当練習したな〜と肘で小突きたくなる愛おしさ。素直になれずスカした態度を取りながら、工藤夕貴への愛はダダ漏れ。駅で「ありがとう」を返されて喜ぶ工藤夕貴。日本人あるあるをアメリカ人が撮る驚き!
ダイナーで変な男に絡まれてホテルに逃げ込むローマ人の女。あの、ダイナーの外で男が待ち伏せしているイヤ〜な感じ。なんとか視界の外に追いやろうとするが、映り込んでしまう。その気持ち悪さたるや。ギャグにならないギャグの居心地悪さがジャームッシュ作品の真骨頂だ。性格が悪い。
銃にまつわるドタバタの男三人組。物語の収束を期待させつつ、一向に本筋に入らない。「ダウン・バイ・ロー」的なオフビートな笑いの真骨頂であり、「レザボア・ドッグス」「ビッグ・リボウスキ」のスティーブ・ブシェミがいるおかげで、タランティーノやコーエン兄弟のクライムモノの不穏さも漂う。
三つのラインが交わるラストカット(鉄道、パトカー、ピックアップ)は見事と言うほかなく、物語の終わりと始まりをズバッと表現している。何かが起こる予感のまま、エンドレスに続く日常。特別なイベントを期待する観客を突き放す、その独特の「抜け感」とも言うべき感性にジャームッシュを感じる。