映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「アルキメデスの大戦」感想

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アルキメデスの大戦、みた。数学の力で戦争を止めようとする一人の男の奮闘を描く。理性で人間の業に勝てるのか。組織の論理、支配欲、エゴへの抵抗…。「完ぺきな答え」がすべてを解決に導くとは限らない。戦艦大和が当時の大日本帝国にとって、そして現代の日本にとって何を意味するのか。良作。

戦艦大和の意味は様々に解釈できる。陸海軍の対立から混乱した日本の政治、その帰結としての敗戦の象徴。何より、みんなが忘れたがっている「国民こそ侵略戦争を望み、勝利を求めていた」という事実。結論から言えば櫂とてその流れには抗えない。そして日本人はまた同じ過ちを繰り返そうとしている。

言い換えれば、戦艦大和は「破滅」の象徴でもある。エリートたちはこれを作れば日本は確実に後戻りできなくなるとわかっていながら、国民の感情を盾にし、みずからのプライドや美学、立場を優先した。中心にあるのは無責任の空洞。すべて冒頭の地獄絵図につながる。悲劇を止められない無力感。

思えば、アメリカ行きが決まっていた櫂が、日本に残り戦艦大和の見積もり算出に取り組んだのは、鏡子さんのいる日本が焦土と化した光景が頭にちらついたからだった。数字の美しさに惚れ込み、真実や正解にこだわり続けた徹底的に「論理」の男が、血の匂いを嗅ぎ、「感情」に動かされた。

映画の終盤、櫂はふたたび「論理」と「感情」の間で揺れることになる。その決断は映画において非常に重要なのだが、彼の葛藤こそ、まさしく歴史が証明してきた日本の病理であると解釈することもできる。政財官の癒着、貧富の差の拡大、国際情勢の不安定化…日本はまた同じ時代に突入しようとしている。