映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「スウィング・キッズ」感想

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スウィング・キッズ、大傑作!朝鮮戦争下の収容所でダンスに打ち込む捕虜の物語。悲しいから踊る。居ても立っても居られなくて踊る。怒りに身を任せて踊る。踊りたいから踊る。踊りたいだけなのに、世界がそれを許さない。それでも舞台に立った瞬間、たしかに全てのくびきから彼らは解放されていた。

好きだから踊る。ただそれだけのことを許されないのが、捕虜収容所という空間なのだ。華やかなダンスパーティーがどこかグロテスクに映るのは、その裏にアメリカという大国と、列強に振り回され祖国を分割された韓国/北朝鮮の力関係が如実に表れているから。生活のために米兵の顔色を伺う女たち。

ファック・イデオロギー!のセリフがある。それがすべてだ。共に汗を流した友だちが黒人だろうと、中国人だろうと、韓国人だろうと関係ないじゃないか。たとえ憎たらしい米兵だろうと、彼らにも家族はいる。ほんらい血の通った人間どうし仲良くできるはずなのに〈敵〉と見なした途端、人格は奪われる。

いっしょにごはんを食べることと同じぐらい、身体を動かすことには特別な意味があるんだと思う。モーション/エモーションが同期した瞬間、理屈を超えた紐帯がそこに生まれる。だってそれは相手が同じ人間だってことに気づくきっかけになるから。誰だってお腹は空くし、リズムは心を踊らせるわけです。

俺はときどき人がごはんを一生懸命に食べる姿を見て虚しくも愛おしい気分になることがあります。ああ、この人も頭と身体を動かすエネルギーが足りなくなれば本能のままに食べ物に食らいつく〈動物〉なのだなあと。同じ釜の飯を食うとは、そういうことなのではと。

ただ、そんな個人の粒々の感情で世界は変わらない。捕虜収容所にも様々な人間がいる。家族をアメリカ人に殺されて復讐に取り憑かれた人がいれば、お腹いっぱいになるためなら何でもする人もいる。さらに遠い海の向こうでは、自由主義共産主義の戦いが。集団の狂気と大国の論理の前に個人は無力だ。

たとえそうだとしても信じるべき未来はあるんじゃないか。そういう希望をこの映画は持っているんじゃないか。一方で、人類はどれだけ悲劇を経験しようとも同じ過ちを繰り返すことを、歴史は証明している。本作はこの事実に対する怒りや失望、無力感にも真正面から向き合っている。