「ジョーカー」感想
ジョーカー、みた。道ばたで異臭を放つゴミのように蔑まれてきた男が、混沌の震源地となり、世界を丸ごと「喜劇」に変えてしまう。果たしてこのテーマをエンタメとして扱っていいのだろうか。お金払って楽しんでいる自分は「マーレイ・フランクリン・ショー」の視聴者と何が違う?とても危険な映画だ。
最近「無敵の人」なんて言葉が流行っているけれど、この映画のジョーカーはまさしくそれである。自分には守るべきものがある、大切にしたいしあわせな時間があると信じていた人が、世界のウソに気づいてしまったら。失うものなんて何もないと開き直ってしまったら。生きる意味ってなんなの?ってなる。
とても居心地が悪くなるし、嫌な映画だと思いますよ。きっとこれで救われる人もたくさんいるだろうけど。一方で「アーサーみたいな人」がピエロとして消費されている、と捉えることもできる。「ジョーカー予備軍は現実にもいるよね」ってみんな言うだろうけど、それは「笑う側」の考えでは?と。
「モダン・タイムス」の「スマイル」が引用されているけれど、「Smile」と「Laugh」は違う。アーサーのそれは「Laugh」ですよ。ふだんは存在のないアーサーが、大声で笑った途端、空間を支配する。彼の笑いは空気をぶち壊す「異物」だ。どこまでいっても優しくない。他人を拒絶する笑い。
アーサーのキャラ造形としていいなと思ったのは、ジョーカーの誕生が「積み重ね」と「混濁」として描かれているところ。なにか劇的なできごとが人を変えるわけでない。ちょっとずつズレて、気づいたら新しい自分になってる。そして本人にはその変化がわからなかったりする。そこは好みであった。
ただ、劇伴が鬱陶しい。「ここはこういう感情になってください!」って主張が激しくて。あまりにドラマティックすぎるとうさん臭く感じてしまうもの。なにも失うものがない孤独な人間というテーマ自体、非常にセンシティブだから。化学調味料てきな。映像自体はとてもリッチでいい。見応えある。