映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「夜」感想

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ミケランジェロ・アントニオーニ「夜」みた。超絶大傑作!親友の死と共に崩壊する夫婦の一夜を描く。パーティーでは主役の夫ジョヴァンニと、ないがしろにされる妻リディア。妻の表情に刻まれた失望。ナイトクラブでの虚ろな目!抜け殻の未練を捨てられない男の愚かさ。気付いた時にはもう遅い…。

リディアがジョヴァンニを見る目が辛い。もう全然愛していない。自分を理解しない男を、そこらへんに転がっている石のように見つめる。なんの感情もこもっていないのである。傍目に見てその冷え切った関係は明らかだが、夫のジョヴァンニは歯牙にも掛けない。病院帰りの車中の会話の噛み合わなさよ…。

パーティーでほったらかしのリディアは、夫を置いてひとり街中を歩き回る。画面において彼女はつねに端っこを歩いている。窮屈さ。外に出て解放されたはずなのに、行き詰まりを感じる窮屈さ。一方のジョヴァンニはそれでも気づかない。妻の方を向かず、自分のことを話している。

ナイトクラブのダンサーがグラスに入った赤ワインをこぼさぬよう、顔やつま先で平衡を保ちながら踊る。こぼれそうでこぼれない。夫婦はそれを暇つぶしのように、たいして面白くもなさそうに眺めている。相変わらず二人の間に会話はない。グラスの中の赤ワインは破綻しかけた夫婦の関係のようだ。

夜のパーティー。激しい雨の中、夫と妻はそれぞれ他の相手を見つけ、繋がり合う。そしてジョヴァンニとリディアとヴァレンティーノは出会う。ジョヴァンニはヴァレンティーノに別れを告げられる。やはりそこにあるのも虚しさ。夜が明けても合奏団は演奏を続ける。もうパーティーは終わったのに。

いつまでも名残惜しさと未練だけで繋がる二人。朝霧のゴルフ場は冷めきった空気が漂っている。妻が夫に気持ちを吐露する。そこに愛がないのは明らかなのに残骸にしがみつくジョヴァンニ。なんてダサいんでしょう。こういう事は全て終わってから気づくものなのだ。犬みたいに妻にすがりつく無残さ。

アントニオーニのは「情事」と「太陽はひとりぼっち」を見た。どちらも似たような内容で細かいところは正直覚えてない。けど、この後味だけはしっかり覚えている。いや〜な感じ。2時間かけて仕上がった残念で不細工な何かを見せられる。できれば直視したくない。しかしこの苦々しさは身に覚えがある。