「パンとバスと2度目のハツコイ」感想
パンとバスと2度目のハツコイ、みた。今泉力哉作品にハズレなし!パン屋で働く絵が描けなくなった元美大生のもとに現れた初恋の相手。かつて好きだった人が目の前にいるほわほわした高揚感と、すでに気持ちは知られているという気まずさと、距離感の掴めない恥ずかしさと。心地よい温度の映画。
「好きってなんだろう?」という問いからスタートし、「好き」とか「愛してる」みたいな言葉のすきまにこぼれ落ちてしまう感情を愚直に掘り下げ、そのあいまいな境界線をさまよい続けるのが今泉力哉監督の作品だと思っている。「好き」って一言でまとめられるほど単純なものじゃなくない?って。
その問いに答えはない。ふみ=深川麻衣も、たもつ=山下健二郎も、なにか明確なゴールを見つけるわけでない。けれど、名付けることができないゆえにモヤモヤしたまま抱え、時になかったことにすらしていた感情を、これでいいのだと受け入れていく。「愛がなんだ」も「his」も「mellow」もそうだった。
そして空間に窮屈そうに同居する男女の〈気まずさ〉がとてつもなく面白い。「パンバス」で言えば交代トイレタイム。「愛がなんだ」の煮込みうどん、「mellow」の女子中学生二人と夏目のすれ違い、お得意先夫婦の逆ギレ。「アイネクライネ」の友人夫婦の食卓。このモード入るときたきた!ってなる笑
ふみのおうちのレトロ(悪く言えばボロい。洗濯機とか古そう)なのに気が利いてお洒落な雰囲気は「凪のお暇」や「四月の永い夢」を思い出す。そういえばあの作品も国立や立川が舞台だった。吉祥寺より先の西東京独特の時間の流れとか染み込んだ生活臭みたいなものがあるんですよね。
これがまた八王子まで行くと田舎過ぎる。武蔵境〜立川のあいだ限定なんですよ、この感じ(超主観)。バスの洗車を内側から見たいっていう好奇心だったり、パジャマシャツがパジャマにしか見えるとか見えないとかで議論する姉妹関係とか、いちいちふみのキャラクターが可愛い。覇気のない感じも今風。