映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「おじいちゃん、死んじゃったって。」感想

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おじいちゃん、死んじゃったって。大傑作!セックスの最中に祖父の訃報を聞いた美子。葬式に集まった親戚は涙も流さない。いまどきの薄情な人びと。たいして仲良くもない親戚の距離感。しかしこれは縁の話だ。いがみ合いながらも一緒に飯を食い川の字に寝る。明日はみんなで笑えてるさって。愛おしい!

動線が定まらないのと、着地点に迷いがあるのが残念だけど、好きな作品。Yogee New Wavesの「SAYONARAMATA」で完結する。タイトルの「死んじゃった」って、どこか他人行儀だよね。甕の中の魚が水面にぷっかり浮いてたのを見つけた時の「死んじゃった」だよ。血の繋がった家族なのに。

訃報を聞いて集まった家族。長男と次男は事務的に葬式の準備をこなす。孫たちは「革靴がない」だけでサボろうとする。他人と関わることが煩わしい。そんな寒々しい光景を見て違和感を覚える吉子=岸井ゆきのもまた祖父の死に無感情なのだ。不感症の人びと。でも、その感覚は痛いほどわかる。 

兄弟の仲悪くもないけど別に良くもない感覚は俺の実感に近い笑 まあこんなもんでしょ。この近いのに遠い距離感は「サバイバルファミリー」の鈴木家を思い出したし、家族を亡くしても泣けない悲劇(喜劇でもある)は西川美和の「永いお別れ」を連想。そういえば衣笠も妻が事故死した時不倫中でしけこんでる最中だった。

初主演の岸井ゆきのを完全に食ってしまう存在感の助演たち。岩松了光石研の絡みは普通のおじさんの会話なのにずっと見ていたい。リアルなのにデフォルメされてる。喪主あいさつのくだりが好き。あとおばあちゃんがおじいちゃんのほっぺを叩くところ。岡山天音小野花梨の兄妹も良い。不機嫌な人間を演らせたらこの二人の右に出るものはいない。

あの走り出す瞬間の高揚感よ。小野花梨は派手な俳優ではないが、どの作品でもしっかり爪痕を残す。兄とはホントはたぶん仲良くやりたいんだろうな。後部座席から兄に暴言はいた瞬間わずかに見せた罪悪感の表情を見逃さなかった。マジでうまい。「鈴木先生」「無限ファンデーション」でも輝いてた。

最後の15分が俺には蛇足に思えて少し残念だった。薫と吉子のあの夜の会話で答えは見つかっているから。90分で収めてたらもっと好きになってた。けど、今村圭介撮影のマイルドな日の光の映像が心地よくて。ちょっとこれは映画館で見たかったなあと思った。