映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「はりぼて」感想

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はりぼて、みた。ニッポンの現実を暴く悲喜劇。計14人を辞職に追い込んだ富山市議会の不正。居直る市議、追求する記者。あまりにひど過ぎて感覚が麻痺してくるが、どれも既視感のある光景。しかし追及に狼狽えウソをつく市議に親しみも覚える。人間の愚かさを見つめたことしベストのドキュメンタリー。

タチの悪いブラックなコントを見ているような感覚。いい歳したオヤジたちが見え透いたウソをつく。記者に淡々と詰められ、徐々にボロを出し、最後はつまらな言い訳を並べながら頭を下げる。時に涙を流す。否定>狼狽>謝罪の三段オチ。それが何度も繰り返される。市議会で天丼をやるな。

まあこいつは流石に大丈夫だろうという議員にも裏切られる。辞職ドミノの末に焼け野原になった市議会は、シラを切り倒して議会に居座るタヌキおやじと、素人同然の新人議員の混在するカオスな場所に。だがこれは現実であり、国政ではもっと酷いことが放ったらかしにされているのだから憤懣やる方ない。

これが不思議なドキュメンタリーで、市議の不正は糾弾しつつもコメディに仕立てられている。じっさい会場もかなり温まっていて、かなりの爆笑を呼んでいた。タヌキの置物や「カラスのフン注意」の但し書きがインサートされるのはかなり意地悪だ。エスプリの効いた笑いは評価が分かれるかもしれない。

ただメディアの側も完全なる〈正義〉の側につくことはできない。調査報道を主導した五百旗頭幸男と砂沢智史の監督コンビはメディアのあり方に対しても自己批判的な目を向ける。ここは東海テレビ制作の「さよならテレビ」を連想させるが、あの業界目線の内向きさに比べると、より建設的だとは思う。

五本議員なんて完全にやっていることは犯罪だし、居直りの態度など最悪だが、一方でチャーミングでもあるのだ。普段は気のいいおじさんなのだろう。でも、そんな人間だって不正は犯す。ウソをつく。単純な悪人の枠に押し込めないところに、現実の複雑さをそのまま受け止める作り手の覚悟が見える。