映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「泣く子はいねぇが」感想

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泣く子はいねぇが、みた。主体性がなく甘ったれ、それでいて往生際の悪い男・たすく。ひとは裏切られた相手には期待しない。土下座したって見限られたら何も響かない。だから、ことねの暗い、刺すような目が怖い。終始共感を寄せ付けない主人公は、僕たちの代わりに過ちを犯し、罰せられるのである。

元嫁(吉岡里帆)や兄(山中崇)の主人公を見る目があまりに残酷すぎる。いくら頭下げても「ああ、はいはい」と。このモード入ったら、許す、許さないの話ではないですよ。あれは見捨てた他人を見下げる目だ。それでもやり直そうとするんだからたすくは相当鈍感だしバカだと思う。

あの態度とられたら諦めるしかないと思うのだが、それでも「もしかしたら…」とたすくは東京から舞い戻ってくる。もはや無敵も言える自分への甘さと、執着である。いい大人が大失敗すると、もうみんな怒らない。勝手に頑張ってくださいって言われる。背筋が凍りましたよ。

とても凪いでいるとは言えない灰色の海の前に停めたハイエースの中で、元夫婦が交わす会話の場面は素晴らしかった。お互いに目線は交わさず、まっすぐ前の海を見つめる。背中を映すから、観客も彼らの顔を想像するしかない。ことねは缶コーヒーを「受け取らず」、「助手席」を「降りる」のである。

ナマハゲには男鹿に生きる男たちの父性と、ホモソーシャルな社会のあり方を重ねることもできよう。たすくには父がいない。彼が地元で鳴かず飛ばずなのは、従うべきロールモデル不在のまま「大人」になってしまったことが少なからず関係している。たすくは慣れないナマハゲの衣装を文字通り脱ぎ捨てる。

そんな彼が自らナマハゲの面を掘り、ふたたび衣装を身に纏うということ。そしてあのクライマックス。たすくは自分なりに見出した(最後の最後にすがり付いた、とも言える)偽りの「面」を被って(周りの大人は認めていない)、どうにもならない過去への後悔と共に、絞り出すように己の父性を発露する。

ところで、初めはこの男臭いナマハゲの伝統をいまの目線から問い直す要素もあるのではと思ったが、そういったアプローチはほぼなかった。ことねも冒頭に「ナマハゲのせいにするな」と切り捨てる。言われてみれば当然だ。この物語の責任はたすくにあり、結果は映画が始まる前から決まっているだ。

この映画はダメな人間が己の失敗を慰めるために見るべき映画ではない。たすくがキリストのように全ての罪を背負って死んでくれたので、僕らはそれを受け止めるべきです。しかし、クライマックスは見せず、玄関のカットで終わったほうがよかったかも。バサっと切ってくれた方が好みだった。

これだけ長々と感想を書くぐらいには刺激を受けた映画なのだけど、一方、そこまで深く響かなかったなと感じる自分もいる。つねにたすくを相対化しながら見ていたからだろうか。面白かったけど、良くも悪くも「そうなるだろうな」と思ってしまった。たすくさん、成仏してください…。感想おしまい。