映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「空に聞く」感想

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空に聞く、みた。3年半にわたり陸前高田災害FMのパーソナリティを務めた阿部裕美さんを追うドキュメンタリー。いつもの昼下がり、ラジオブースを流れるゆったりとした時間。仮設住宅での取材、商工会の人びとの対談、七夕のお祭りの風景。ドラマとは、人間が生きていることなのだと改めて気づく傑作。

震災後の被災地を追ったドキュメンタリーは「春を告げる町」が傑作であったが、この「空に聞く」もすばらしい。どちらも共通するのは、ただそこに生活する人びとをフラットに映すということ。特に本作はその態度が顕著である。陸前高田に移住した小森はるか監督だからこそ獲得し得た視点か。

こうなると去年評判の良かった同監督の「二重のまち/交代地のうたを編む」も見たくなる。来年ポレポレ東中野東京都写真美術館で特集上映があるらしいので、ぜったいに見逃せない。

この映画を見ている最中に思い出したのが森美術館「STARS展」で上映されていた村上隆原発を見にいくよ」である。反原発メモに参加したカップルが「実物」を見に行く様をどこか間の抜けたユーモラスな映像で語るこの作品は、どこまでも福島の現実を客体化し、三人称で語る「私たち」への警鐘だった。

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で、これと「空に聞く」の直接の関係はないのだが、映画があくまで「被災者」ではなく、あくまで「陸前高田に住む人」として撮られていることに、俺は共感を覚えたのである。震災は背景でしかなく、監督の関心は阿部裕美さんひとりの生き様なのではないか。