映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「男はつらいよ 寅次郎春の夢」感想

f:id:StarSpangledMan:20210720000041j:image

男はつらいよ 寅次郎春の夢、観た。アメリカからやって来た行商人・マイケル。「アメリカ人は嫌いなんだ」と騙して梅干し食わせて逃走したり、日本語分からないと罵声を浴びせたり、とにかく寅さんの悪行が目立つが、ことばが通じなくても「男」として理解し合えるふたりの関係が良い。異色の傑作。

ひさびさに「男はつらいよ」を観て、こんなに音楽よかったっけ?と。香川京子林寛子(メチャクチャかわいい)に「離れていても愛は通じる」と説く寅さん。直前までのコミカルなトークと打って変わってロマンティックな語りの背景に流れる、美しいバイオリンの音色に心奪われる。

この歳になっても失恋して苦しむって、ホントに情けなくてダサいけど、それでもステキな人に出会ったら心は躍るし、つい失敗もしてしまう。マイケルを演じるハーブ・エデルマンの窮屈そうな背中が愛おしい。さくらに思わず告白してしまうクライマックス。あの狭っ苦しい畳の間でやるから余計に切ない。

好きなのは寅さんとマイケルの別れの場面。前の晩からヤケ酒で、朝焼けに包まれた上野駅で最後のことばを交わす。昔から旅人が交わっては別れて来たこの場所で、ふたりのモテないおっさんが互いの健闘を祈り合う。不忍改札の前の横断歩道、別れたふたりを絶つクルマの往来。とても美しい場面だ。

「I love you」と「impossible」。アメリカ人から見た日本人夫婦の「愛のなさ」から生じるすれ違い。「いいか、へこたれるんじゃないぞ。今にきっといい事あるからよ。おめえなら幸せなれるからよ。」どんな相手でも一回喧嘩しちゃえば分かり合える。寅さんは幼稚だが気持ちの良い人間だ。