映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「メタモルフォーゼの縁側」感想

f:id:StarSpangledMan:20220621001444j:image

メタモルフォーゼの縁側、観た。劇場を後にして、あの場所に帰りたいなあって思い出す映画は、正解だと思う。俺はあの縁側に帰りたい。縁側を通る心地よい空気や、雪さんとのおだやかな時間、同級生を「ずるい」と思ってしまうざらっとした感情。すべて「好き」を通じて得られた大切な思い出なのだ。

芦田愛菜は新作を観るたびに新しい驚きがある。はじめて雪さんの家に行った時のあたふたしたり、ワクワクが隠せなかったりする様や、印刷所の前で棒立ちするシーンなんて、マンガ的な笑いと実写のリアルの間の突き方がほんとうに上手い。一体どこにそんな引き出しがあるんだ…。天才としか。

女子高生と老婆の友情。しかもBLを通じた出会い。現代的なシスターフッドの切り口と言える。「好き」という営みを、あくまで趣味の範囲にとどめていて、あえて「生産的」な領域に引っ張り込まないのが良い。「メタモルフォーゼの縁側」はドラマになりそうな展開をあえて拒絶するのだ。

雪さんが歳をとっていることを、物語を盛り上げるためのネタにしない。歳をとっているが故に誰かが不幸になったり、損をしたりするような展開を用意しない。その逆もまた然りで、うららが高校生だからといって、辛い目に遭うことはない。うららの苦悩は、彼女のものとして描かれる。

「女子高生」と「老婆」というキャッチーな入り口ながら、記号的なドラマの作りをなるべく排除しようとしている。「BLだから」と拒絶されることもない。単純なようでいて、案外、複雑なことをやっているように見える。ある意味、これは理想の世界であって、もっと苦くて酷い現実もあるのだけど。

一方、脚本の作りは、もう少し上手くできたはずだと思う。エピソードの羅列になっている感は否めず。なにより時間軸がわかりにくい。季節の移ろいや、受験が迫ることに対して、リズムが欲しかった。「君のことだけ見ていたい」とのオーバーラップも、若干テンポを削いでいた。編集が悪い気がする。

「年の差58歳。最初の青春、最後の青春」とは、良いキャッチコピーだ。この時間は永遠ではないのかもしれないという儚い予感を漂わせつつも、この物語はずっと続くのだ、我々の現実と地続きなのだと思わせる、この絶妙なバランス。

雪さんの方が先に亡くなるだろうし、うららは大人になるけど、彼女たちにとって大事なのは、おそらくそんなことではない。ところでうららの通う学校が今どきで、教室の壁がガラス張りだったり、階段が開放的だったりで、良かった。ロケ地は淑徳与野女子。うららの団地や雪の古民家と良い対比になる。