映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「波高」感想

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波高、みた。過疎の進む島で身体を売る少女と、彼女を取り巻く村民を描く。全員が親戚か兄弟の閉鎖的な空間で、男社会の醜い欲望と抑圧が、女を苦しめる。淡々と描かれる狂気と倫理観の破綻に目新しさはなく、エンジンかかるのも遅すぎるのだが、その分ラスト15分は見応えあり。

ロカルノ映画祭で審査員特別賞とのふれこみだったので楽しみにしていたのだけれど、それなりに拍子抜け。終始画面が暗くて見にくい。故に後光の差す朝の浜辺の場面は解放的で美しいのだが、それを補って余りある効果は発揮していない。あと主人公?の警察官・ヨンスの輪郭がハッキリしないんだよね。

オヤジたちが内々で処理して逃げ切ろうとする卑怯さや、モノのように扱われることに慣れきってしまう女の虚無は、すでにこれを扱った良質な韓国映画が多数存在しているので「波高」の強度だとかすんでしまうと思う。もっとサスペンスフルで過激な映画を知る身としては、やはり物足りなく感じる。

イノシシが村を荒らす。隣の村の老婆を殺したという。村の男たちは、何としてもイノシシを狩らねばならんと息巻く。外では呑気に愛をうたう歌が流れている。一方、山の中では二人の少女が凍えているのだ。シチュエーションとしてはバツグンに〈嫌〉なのだけど、あんまりピリッと来なかったです。

「アナと雪の女王2」感想

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アナと雪の女王2、みた。エルサは謎の歌声に導かれ、アナたちと共に閉ざされし森に足を踏み入れる。正直もうアニメーションの発展で感動することはないと思っていたけど、これは凄まじい。テーマは前作の反復ながら、アナとエルサが〈どんな選択をするか〉に焦点を絞ったのも続編ならでは。期待以上!

音楽は「ありのままで」のようなキャッチーさがなく拍子抜けだが、より物語と映像になじむものになっていたと思う。姉妹はエルサの力ゆえに何度も引き離される。お互いを想い、信じているから、相手を突き放しては抱きしめ、また突き放し…を繰り返すのである。姉妹だからこそ距離を測りかねる哀しさ。

「イントゥ・ジ・アンノウン」の別次元に飛ばされたかのような強烈な映像にガツンとやられた。松たか子の解放的な伸びる声がすばらしい。「宮本から君へ」のエンディング「Do you remember?」じゃないけど、思わずいっしょに叫んで走りたくなった。本当は彼女にはずっと進むべき道は見えてたんですね。

周囲から期待されていることや評価、自分の自分に対する認識、そして心のうちに秘めた本当にやりたいこと。ぜんぶ違うし少しずつズレている。おそらく人はそのギャップに苦しみ続けるのだ。エルサは己の強大な力を、両親の命を奪った憎きものとして恨み続けている。アナはそんな彼女を心配し支える。

エルサの力の源と、アレンデールの過去をたどる中で、エルサは一気に力を駆使し、アナは地道にひとつずつ積み上げて、困難を突破していく。それぞれの選択の末にある未来。結果から言えば予定調和なのだが、その過程が美しい。〈あなたにはまだ自分に見えていない未来がある 〉という話として捉えた。

そうそう、照れ隠しか知らないけど、前作への言及にちょくちょくトゲがあったのが面白かった。ディズニー作品で直接のシリーズ作にああいうメタ的な自己言及するのって珍しいのでは?

「熱帯雨」感想

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熱帯雨、みた。国語教師のリンは不妊治療が上手くいかず、夫との仲も破綻しかけている。そんな彼女に生徒のひとり・ウェイルンは好意を抱いていた。雨の中、二人きりで車に乗る。窓を滴る雨、肌に貼りつく湿度、官能的なワイパーのリズム…。禁欲からの解放が爽やかな作品。

あらすじだけ追うとポルノのようだけど。シンガポールの空気ってどんなだろうと思う。開けっ放しの窓に吹き込む雨の勢いからいろいろ妄想していた。ずっと雨だからとにかく車移動。外は歩かない。終始雲が太陽を隠す昼の薄暗さに悶々とする。まったりした雰囲気のリン先生も人妻の色気が凄い…。

ワイパーのリズムってエロいよなあと思っていたので、映画の中でそういう風に描かれていたのは「やっぱりそうだよね!」となりました。あの独特の遅さよ。あと、ドリアンってこんなにムズムズするフルーツだっけ?ニュースで流れるマレーシア情勢と、先生と生徒の関係。抑圧の末になにが訪れるのか。

「子はかすがい」なんて言葉があるけれど、リン夫婦に子どもはいない。でも、介護が必要な義理の父はいる。二人の仲をかろうじて繋ぐのが老人の介護なのだ。ウェイルンに孫を見るような目で接する可愛らしいお爺さんではあるが、そんな関係、あまりに虚しくないだろうか。

シンガポールでの国語(中国語)の扱いが面白かった。「そんなの習ってビジネスに役立つわけ?」と。映画を通して初めて知るその国の風俗。全体的に視覚と聴覚でたのしむ映画で、リン先生の行き着く先に強く心動かされる、という感じではなかった。でも、それなりに見応えのある作品でした。

「羅小黒戦記」感想

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羅小黒戦記、超絶大傑作!大都会の隅っこでひっそり暮らしていた猫の妖精・シャオヘイは、魔法使いのムゲンに連れられ、居場所を探す旅に出る…。パワフルなバトル描写、妖精たちの可愛らしい掛け合い、そして試練を乗り越える中で育まれる師匠との絆!ロードムービーとしても最高。今年ベストの1本。

羅小黒戦記、みんなが大好きな要素のてんこ盛りだと思います。世界観としては「千と千尋の神隠し」や「となりのトトロ」などジブリのファンタジーが下地にあって、さらに「NARUTO」や「プロメア」の特殊能力バトルの要素、そしてザック・スナイダーのスピーディかつ重みの伝わるアクションのケレン味

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前半はシャオヘイとムゲンのロードムービーとして素晴らしい。かつて暮らしていた故郷の森と、小汚い都市の人間の生活しか知らなかったシャオヘイにとって、ムゲンと見た世界は、とてつもなく広く、刺激的だったはず。妖精を知らない人間とのふれあいも楽しい。〈館〉のメンバーも個性豊かで素敵。

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ラストシーンのロケーションが大好き。夢の中にいるかのように幻想的で、かぬ、懐かしくて居心地の良さを覚えるような。思わずホロリときてしまったよ。劇場は女性ファンも多く、すでに一部界隈では大評判のようだけど、それも納得。シャオヘイとムゲンの関係は、イマジネーションを刺激してくれる。

「PROSPECT プロスペクト」感想

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PROSPECT プロスペクト、みた。傑作!一攫千金を狙って降り立った採掘惑星で父を殺され、ならず者と共に故郷への帰還を目指す少女の物語。70年代SF風ガジェットとゴールドラッシュ末期の退廃的な雰囲気にハマる。誰も信じられない孤独なサバイバルの中で逞しく成長する少女の、確かな顔つきの変化よ!

低予算SFながら独特の手ざわりを持つという点では、ダンカン・ジョーンズ月に囚われた男」に近い雰囲気。また埃をかぶったレトロなガジェットやDIY的なサバイバル劇としてリドリー・スコット「オデッセイ」を彷彿。といったら褒めすぎかもしれないが、これはたしかにシネマカリテで見たい作品。

決して気が強いわけではないが、逞しさを見せる少女・シー。演じるソフィ・タッチャーがかわいい(大事)。大きな山場があるわけでもなく、単調といえば単調な展開なのだが、彼女がどういう運命辿るのか、先が気になって仕方なかった。それもソフィ・タッチャーの持つ魅力のおかげなのだろう。

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鉱石の元が生物だったり、空気中に胞子が飛んでいて清浄機が必要だったり、という設定も面白い。個人的にツボなのは銃の弾を手巻きで充電するところ。お話自体はかなりざっくりしているが、しっかりSFとしてフェティッシュな魅力を持っていて、不思議と飽きのこない映画だった。満足。

「ゾンビランド ダブルタップ」感想

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ゾンビランド ダブルタップ、みた。リトルロックの家出から始まる冒険を描く「ゾンビランド」後日譚。ゾンビをサクサク退治していく楽しさはそのままに、愉快な新メンバーも迎えてパワーアップ。マディソンの異次元のアホっぷりに笑う。みんな良い意味で10年前のまま。同窓会的なノリで軽く楽しめた。

中盤の見せ場、コロンバスとタラハシーのドタバタの長回しがお気に入り。序盤のホワイトハウスでの日常はぜひもっとたくさん見たい。映画の外の10年間の彼らのサバイバルの様子を垣間見る。ジェシー・アイゼンバーグウディ・ハレルソンのやり取りは「そういえばこんなだったね〜」と懐かしくなった。

エマ・ストーンはすっかりスターの風格で、普通のお姉さん感を出しながらも隠しきれないセレブオーラーが。ゾーイ・ドゥイッチ演じるマディソンがツボ。自己紹介の「マディソ〜ン♪」からしてかなり効いてる。ポストクレジットのオマケ映像がなかなかイカしてた。アレ見たかったやつです。

「テルアビブ・オン・ファイア」感想

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テルアビブ・オン・ファイア、良作!人気ドラマの脚本家が結末をめぐって検問所の主任とトラブルになり…。複雑なパレスチナ情勢を皮肉とユーモアを交えて描く。あっちを押してもダメ、こっちを引いてもダメ。八方ふさがりのサラムの状況は、この国の現実。でも、たくさん笑って最後は温かい気持ちに。

脚本家見習いのサラムはいつもぼけーっとして、ふらふらと流されているうちに、いつのまにかとても奇妙な事態に巻き込まれてしまう。そこは否定しとけよ!とか、ちゃんと説明しなよって思うところもたくさんあったけれど。決めるときはしっかり決めるんですよね。男として、そしてクリエイターとして。

テルアビブ・オン・ファイア、ワガママな演者に振り回されたり(彼女が才能を見出すわけだが)、対応が後手後手に回るうちに制約が増えてにっちもさっちもいかなくなってしまうあたりや、それでも作り手としてベストな着地点を探すんだって矜持は「アメリカの夜」や「カメラを止めるな!」を思い出す。

検問所のアッシが好き。権力に胡座かいた嫌味な男かと思いきや、意外にも単純で愛すべき性格の人間だった。特にドラマにたいして興味なかったくせに、脚本のアドバイスだけは的確なのが面白い。なかなかに緩い。しかし一方でイスラエルパレスチナの対立を知っているから、そこには常に緊張感がある。