映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「ワンダーウォール 劇場版」感想

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ワンダーウォール 劇場版、みた。今年ベスト!京大吉田寮をモデルに、築100年の自治寮を守ろうと戦う大学生の青春を描く。ああ、なんて切なくて、苦くて、青臭くて、それでいてこんなにも胸が熱くなるのだろう。対話を拒む大学当局は変質する社会の象徴であり、ゆえに彼らの人間臭さが眩しく輝くのだ。

近衛寮の美術がとにかくすごい!本当に吉田寮を借りて撮影したのでは?と思うほど細かく作り込まれていて、雑多に散らばった洋服やゴミ、壁に染み付いた生活の臭いと汚れには、しっかり100年分の蓄積が刻まれているのである。だから見ているだけで楽しい。自分たちだけの秘密基地のワクワク感。

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側から見ればただのボロくて汚い変人の巣窟を確保できるかがそのまま社会の豊かさに直結するのではないだろうか。各々が好き勝手に暮らす近衛寮。敬語は使わない、トイレも男女共用、寝床は毎回適当。ここには大学生の頃に感じた全能感と自由がある。彼らに居場所があるということ。それが大事なのだ。

大学当局は学生への態度を硬化し、学生課に〈壁〉を作る。窓口は派遣の捨て駒で、抗議の声にはまったく耳を傾けない。この絶望、どこか身に覚えがある。近衛寮と大学の対立はそのまま殺伐とした社会の縮図なのである。世界には自由と良心があると信じさせてくれた場所が、奪われようとしている。

自分たちの居場所が、世の中から跡形もなく消えようとしている。好転しない状況への焦りや戸惑い。先輩たちから受け継いできたひとつの文化を途絶えさせてしまうかもしれない。そんな中、学生たちを率いる三船=中崎敏。理知的で悟ったような空気のカリスマ感!三村和敬演じるマサラの未熟さもいい。

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俺の大好きな俳優、岡山天音はいつも地方の実家でくすぶってるイメージだが、今回は後輩がいて、みんなを率いる立場だ。相変わらずヘナヘナしてる。何であんなにふてくされながら床に寝転がる姿が様になるんだろうなあ。二口大学の大学教授感にも笑ってしまった。ああいう人たくさんいたわ。

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成海瑠子との対話が非常に印象深い。「頑張ってください、頑張れるところまで」と。そして暁の茶事!あの夜明けの空の色よ。先輩の卒業式の日、朝まで飲んでキャンパスの庭でみんなで締めのカップ麺をすすったのを思い出す。あの自由は2度と味わえないだろうなあ。演奏シーンでボロ泣き。超絶大傑作。

「許された子どもたち」感想

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許された子どもたち、傑作!いじめの末に同級生を殺してしまった少年は、母の説得に屈して容疑を否認するが…。これはもう〈見る地獄〉です。被害者遺族の会見も、ネットリンチも、加害者の一見不可解な逃避も、すべて見覚えがある。少年犯罪は〈未熟さ〉で片付けていいものではなく社会の問題なのだ。

いまの世の中、一回ミスを犯したら地の底まで一直線に転がり落ちるしかないのですよ。そんでみんな死体蹴りをしたがる。悪さをした人間が幸せを感じるなんて、真面目にやってる自分が損をした気になるから。そして、だれもが他人を捌ける位置に自分がいると思い込んでいる。これこそが地獄なのである。

〈許された〉とは秀逸なタイトルだ。じっさいは許されたのではなく野放しにされたのだが。ルールのない私刑の空間に放り込まれたら、防戦一方なのだ。それを周囲の大人たちは防げなかった。保身と現実逃避に走って事態を悪化させた。裁判までの母親の言動は一から十まで胸糞ものである。

人を裁くってどういうことか。正直、犯罪はやったしまったら取り返したがつかない。どう贖おうとしたって元に戻るはずがない。加害者が反省したって被害者の傷が回復するわけでもない。裁いて、痛めつけて、その先に何があるのか。終わりなき殴り合いであることはこの映画の後半が証明している。

カラオケボックスアジールとして象徴的に描かれているのは興味深い。はじめから関係性にヒビの入っていた加害者一家にとり、心安らぐ空間とは家でも、隠れ蓑のシティホテルでもなく、寂れたカラオケの一室なのだ。癒しとまでは行かずとも発散にはなる。息子と母二人きりのときだけ時の流れは穏やか。

基本的に〈最悪〉としか言いようのない、不快な出来事の連続なのだが、不思議とテンポがよく、流れに疾走感があるため、見ていて〈楽しい〉のである。もっと先を見せてくれと。だからこそ終盤、息子と母の行動がオーバーラップするシークエンスは、話の流れが停滞して(しかも無駄に長い)退屈だった。

「はちどり」感想

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はちどり、みた。1994年の韓国に生きる少女の物語。キム・ウニは今どんな大人になっているだろう?劇場を出て最初に思った。裕福ではない家庭で狭い団地に一家5人。尊敬する漢文の先生や仲の良かった友人を思い出して何を想うのか。でも彼女に目に映る世界が10月のあの日より豊かであることは確かだ。

この映画、ほんのり〈男性性〉への嫌悪感が漂っているように思う。この表現が強いならば緊張感とも言っていい。それはイコール家父長制とは限らない。もっと身体的かつ感覚的な何か。一方ウニが女性と接するとき、スクリーンには安心感が漂う。漢文塾で先生のタバコを吸う背中を見て、それを確信した。

誰もがあの場面で「やっと出会えた」と思ったはずである。ウニの居場所、あったじゃないかと。あの狭くて息苦しい、ごはんの美味しくない団地のリビングとは違って、安らげる場所がある。その瞬間、ウニの世界は広がった。こんなカットを処女作で撮ってしまう監督。すさまじい才能だと思った。

正直、俺はウニの年ごろに「生きづらい」って感じた記憶がないから、根本的には通じ合えていないのだと思う。長男だったし。どっちかというとウニに疎まれる側である。しかし、あのアッサリした人間関係は面白いなあ。「好きって言ってたでしょ」『それは前の学期の話』って!だから中学生は面白い。

暴力的で子どもじみた言動すら見せる父親、甲斐性もないのに威張る兄。姉とも特段仲のいいわけではない。唯一母親はウニの目を見ている。チヂミを作りながらの会話が印象的。全体的なテーマよりもディテールに興奮する映画だった。一つひとつのカットが美味しい。心を軽くする新鮮な空気が漂っている。

さっき言った男性性への嫌悪感、これは決して男性の否定ではないと思っている。ただ、〈オトナ=男性〉の支配する空気にウッとなる感覚。それは男の俺でもたまに感じるのだから、女性ならなおさらなのではと思う。ウニは中学2年生だ。その肌の反応を映像に刻み込んでいるのである。ひたすら感動。

「水曜日が消えた」感想

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水曜日が消えた、みた。面白かった!どうせテレビ局幹事のオリジナルサスペンスなんて…とタカくくってました。「スプリット」かと思いきや「ビューティーインサイド」。事故がきっかけで7つの人格に分裂してしまった「僕」の中から「水曜日」が消えてしまい…。中村倫也劇場開演の後半にしびれる。

石橋菜津美と中島歩。ふたりの助演が光る。すごく良かったので名前覚えました。基本的に「僕」の家と図書館で物語は完結する。そのスケールの小ささが良い。この題材だと欲張って大事件を起こしたり、ハデなどんでん返しを用意したくなりそうなものだけど。〈気になるあの人〉が軸なのが慎ましい。

割れたサイドミラーに映る鳥がヒビに沿って分岐していく掴みに始まり、7人の「僕」が並べた洗面所の歯磨き、コップ、仕事机…と、彼なりの生活が提示されるオープニングが楽しい。あと「僕」の家の前の坂道!「天気の子」の陽菜さんの家みたい。町を一望する丘の上からの景色と、人物の表情が良い。

あとやっぱ深川麻衣は良い。パン屋とか図書館の司書とか、そういうのが似合います。中村倫也は「伊藤くん A to E」や「オズランド」のヘタレ感から「凪のお暇」のマイルドオラオラ系まで役の幅が広いが、どれも〈中村倫也〉なのである。その俳優〈中村倫也〉の豊かさがしっかりこの映画にはある。

日替わりの「僕」を受け入れる友人に、寝て起きたらあの人に会えない…といった焦りや悔しさ、それから映像の質感など「ビューティーインサイド」の影響を感じる。これが単なる気のせいなのかは作った人に聞いてみないとわからないけど。ただリビングの間取りがつまらないなと思った。配置が微妙…。

「春を告げる町」感想

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春を告げる町、みた。傑作!全町避難が解除された双葉郡広野町に帰ってきた人びとを追うドキュメンタリー。映画は「彼らが震災以前なにをしていたか」に重きを置かない。爪痕を殊更に強調することもない。そこにあるのは広野町の日常であり、折々の行事である。すべてはその現実を知ることから始まる。

震災後に生まれた子と戻ってきた夫婦、復興テーマの劇に挑む高校生、過去の繁栄を知る老人たち…。あんまり彼らの背景情報がないんですよね。震災の経験は語らないし、あの日を境になにを失ったとか、戻ってきて生活がどう変わったとかいう話は深掘りされない。ひたすらカメラの前で時間が過ぎていく。

観客が彼らの経験を〈物語化〉することを拒絶しているのではないか、と思う。安易に触れてしまうと、それは消費につながってしまう。そこはドキュメンタリーの難しいバランスだが、映画は双葉郡広野町に帰ってきた人びとの1年間のみをフレームに入れることでその課題を回避している。

映画は生命の誕生と仮設住宅の閉鎖から始まる。これは間違いなく〈はじまり〉の話である。大げさかもしれないが「ダンケルク」を思い出した。彼らがなにをしてきたかではなく、これからなにをするのか。それを見て観客の僕たちがなにを受け取るのか。作中演劇の「人生ゲーム」主人公と同じ境遇である。

かつてこの町で見つかったヒロノリュウ=恐竜は隕石の落下で絶滅した。震災後の3月11日に生まれた「あん」ちゃん、村落の老人が飼う子犬、田んぼに放たれたあひる(最後は食べられる笑)。田植えに始まり、最後は収穫で終わる。生命の円環。若者のいない町のこれからは?祭りは再開されるのだろうか。

復興をテーマにした演劇に挑むのは県立ふたば未来学園中学校の生徒たち。震災後に生まれた学校である。彼らは「復興とは?」を考え、もがき続ける。小柄な主演の女の子、答えが見つからず時に悔し涙を流す演出担当、戸惑いながらも全力でぶつかるメンバー。顧問の先生の距離感もいい。最後泣くし笑

彼らの葛藤は、3月11日生まれの女の子のエピソードとオーバーラップしていく。そう、これは「これからどう震災を語り継ぐか」なのである。9年前の出来事たま。もはやあの日を知らない子どもたちもたくさんいる。そんな彼らが紡ぐ未来、これからの復興も考えなければならないのだろう。

地味に原発作業員がお酒飲んでるところが好きで。だいたいみんな県外出身者。奥さんに「愛してるよ!」だって。唯一映画の中で〈外の人たち〉なのだが、ほほえましくて印象に残っている。あと、キャンプファイアみたいに一晩中小屋を燃やして餅を焼く行事。パチパチと炭の弾ける音が気持ちいい。

「WASPネットワーク」感想

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WASPネットワーク、みた。90年代マイアミに潜伏していた反カストロ組織を追跡するキューバ人スパイたちの物語。ドキュメンタリータッチで積み上げる抑制した作り。中盤の物語の構造が明らかになる瞬間や、ミグと小型機の海上の駆け引きは見どころだが、事実の面白さに映画が負けている気がする。

ペネロペ・クルスエドガー・ラミレスガエル・ガルシア・ベルナル、アナ・デ・アルマスと、ハリウッドでも活躍するスペイン語圏のスターたちそろい踏み。アナがマイアミでスパイの男と出会い、やがて捨てられるまでの下りは面白かった。何も言わずになんてひどい。爆弾テロの手際の良さも驚き。

話の着地も「ええ、そこで終わるんかい」という拍子抜け感。スパイ映画らしからぬ呆気なさで、どちらかというと伝記映画の色が強い。もう少しコッテリしたものを見たかった気もする。

「イエスタデイをうたって」全話感想

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イエスタデイをうたって、傑作!49%うしろ向き、51%まえ向きに生きる4人の男女の青春群像。ゼロ年代世田谷線沿線のノスタルジックな雰囲気がたまらなあ。人生の遠回りを受け容れてくれる気がする。みんなちょっとずつずるい。好意に寄りかかったり、何もかも壊したくないと欲張ったり。愛おしいよ!

ただちょっと着地は勿体なかったね。2クールでじっくり描いてもよかった。リクオは自分に嘘をつく。榀子を追いかけていた過去にとらわれているのだ。なにが大事かわからないから、なにをしたいかもわからない。榀子もまた同じである。彼らは似た者同士ゆえに、同じところをグルグル回っている。

心をぐらっと動かされるような感動はなかったのだけど、それこそ井の頭公園を散歩したり、ちょっとレトロな喫茶店でのんびりお茶を飲むような心地よさ、気持ちいい時間の流れみたいなものがこのアニメにはある。それは主演の声優陣たちの声質と演技に寄るところも大きいと思う。

リクオ演じる小林親弘の低く響く声。ずっと聴いていられる。宮本侑芽のハルはカラスを連れて歩くエキセントリックな女の子。アニメ的な可愛さの中に、体当たりしながらも葛藤するリアルな感情の揺れが表現され、愛せずにいられないキャラになっている。榀子の花澤香菜は言わずもがな。

浪を演じる花江夏樹は人気声優だけど声があまり好きではない。けど、榀子へのちょっとねじれた少年の繊細な心を余すことなくその声に込めている。しかし、憧れの人と一緒になれたはずなのに息苦しいとは…青臭い胸が痛い!最終回、ハルの目の前をとある過去のリクオとハルのカットが最高。

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