映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「はちどり」感想

f:id:StarSpangledMan:20200627174206j:image

はちどり、みた。1994年の韓国に生きる少女の物語。キム・ウニは今どんな大人になっているだろう?劇場を出て最初に思った。裕福ではない家庭で狭い団地に一家5人。尊敬する漢文の先生や仲の良かった友人を思い出して何を想うのか。でも彼女に目に映る世界が10月のあの日より豊かであることは確かだ。

この映画、ほんのり〈男性性〉への嫌悪感が漂っているように思う。この表現が強いならば緊張感とも言っていい。それはイコール家父長制とは限らない。もっと身体的かつ感覚的な何か。一方ウニが女性と接するとき、スクリーンには安心感が漂う。漢文塾で先生のタバコを吸う背中を見て、それを確信した。

誰もがあの場面で「やっと出会えた」と思ったはずである。ウニの居場所、あったじゃないかと。あの狭くて息苦しい、ごはんの美味しくない団地のリビングとは違って、安らげる場所がある。その瞬間、ウニの世界は広がった。こんなカットを処女作で撮ってしまう監督。すさまじい才能だと思った。

正直、俺はウニの年ごろに「生きづらい」って感じた記憶がないから、根本的には通じ合えていないのだと思う。長男だったし。どっちかというとウニに疎まれる側である。しかし、あのアッサリした人間関係は面白いなあ。「好きって言ってたでしょ」『それは前の学期の話』って!だから中学生は面白い。

暴力的で子どもじみた言動すら見せる父親、甲斐性もないのに威張る兄。姉とも特段仲のいいわけではない。唯一母親はウニの目を見ている。チヂミを作りながらの会話が印象的。全体的なテーマよりもディテールに興奮する映画だった。一つひとつのカットが美味しい。心を軽くする新鮮な空気が漂っている。

さっき言った男性性への嫌悪感、これは決して男性の否定ではないと思っている。ただ、〈オトナ=男性〉の支配する空気にウッとなる感覚。それは男の俺でもたまに感じるのだから、女性ならなおさらなのではと思う。ウニは中学2年生だ。その肌の反応を映像に刻み込んでいるのである。ひたすら感動。