映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「顔たち、ところどころ」感想

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顔たち、ところどころ」みた。アニエス・ヴァルダと気鋭の芸術家JRによるドキュメンタリー。フランスの田舎町を巡りながら市井の人ひどの写真をあらゆる壁に残していく。炭鉱の元労働者、ウェイトレス、工場の職員、トラック運転手…みんな自分の写真見て誇らしげだ。ほんとうに豊かな90分。傑作!

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知的でユーモラスなアニエス・ヴァルダ。親子以上に歳の離れたJRを連れて飄々と旅をする。なんてカッコいいんだ。「アニエスによるヴァルダ」でも引用されたが、潮の満ち引きを利用して海辺の岩に写真を貼るアイデアがいい。そして貨物列車のコンテナに彼女の目や足の写真を。想像力を刺激される。

 

「マルモイ ことばあつめ」感想

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マルモイ ことばあつめ、みた。傑作!日本統治下の韓国で母国語を遺そうと辞典作りに奔走した人びとを描く。ことばが奪われていく屈辱と怒り。命を賭して戦う彼らの気高き誇りに感動すると共に、日本の占領政策のグロテスクさに改めて驚く。なかなかこの映画を素直に「面白い」と言えないのが複雑だ。

この映画が面白いのは、主人公を朝鮮語学会のリュ代表ではなく、スリで生計を立てるゴロツキのパンスに設定しているところ。「ハングルの〈トシラク〉が日本語の〈ベントウ〉に置き換わっても、腹が満たされるならどっちでも構わない」と鼻で笑っていた彼が、ハングルへの誇りと愛に目覚める展開が熱い。

圧倒的不利な状況でも諦めずに戦い続ける。「ローグ・ワン」を思い出すテイスト。〈カバンを持って走る〉アクションのリフレインが素晴らしい。ことばはその民族のすべてを知っている。一つひとつの単語に意味があるし、地名にはその土地の歴史が、名前にはその人や家族の人生がある。

だから創氏改名政策は本当に酷いなと。文化や価値観の押し付けにとどまらない。精神の束縛であり支配だ。しかも統治者たちはそれが効果的であることを熟知している、というのがさらに恐ろしい。日本語しか喋れなかったり、ハングルに拒絶反応示したりする子供たちの姿に胸が苦しくなった。

日本人の自分ですらそう感じるのだから、まして当時の大人たちや朝鮮語学会の学者の悔しさや苦痛はいかばかりか。親日派にならざるを得なかった者たちの姿も描かれるが、これまた虚しいものがある。そういう意味でリ代表は〈日本の帝国主義〉と〈親日派の父〉の二重の父殺しの宿命を負っている。

ユ・へジンの〈渥美清〉感がすごい。愛嬌ある飲んだくれのヤクザなオヤジ演らせたら彼の右に出る者はいないかもしれない。一方のユン・ゲサン。重圧や焦りゆえか少々取っつきにくいリュ代表を演じる。二人のあいだを流れる空気の変化を繊細に表現していた。韓国映画は凸凹コンビ描くの本当にうまい。

「ドロステのはてで僕ら」感想

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ドロステのはてで僕ら、みた。自宅のテレビと下の階の喫茶店のテレビが〈2分間の時差〉で繋がっていることに気づいたオーナーのカトウは…。ちょっと先の未来が見えるテレビを巡る〈すこし・ふしぎ〉な騒動を描く。少々複雑だがこのこじんまりしたスケール感がたまらない。ひたすら楽しい作品。傑作!

トンチの効いた設定とすべて雑居ビルの中で完結する(1階と2階の行ったり来たりが楽しい)コンパクトさ、それをさらりとまとめてしまう脚本もすごいのだけど、やっぱりこれはキャラクターの映画だと思う。喫茶店のオーナーと店員、それから続々集まってくる常連たち。この空間の住人が愛おしい。

演劇は全然知らないけど、このシチュエーションコメディ的な設計と、長回しの中の丁々発止のやり取りは舞台っぽい。彼らと小さな冒険を共にしているような気分になる。これがすごくワクワクする。喫茶店ワンルームの行き来にアトラクション的楽しみがある。このスケール感がたまらないのだ。

なんというかあの人たちにまた会いたくなってくるんですよねえ。その先の物語も見たくなる。ほとんど前情報入れてなかったので、朝倉あきが出てきたのは嬉しくて飛び上がりました。巻き込まれつつも飲み込み早いあたり可笑しい。カトウ=土佐和成との微妙な距離感、空気感がまた微笑ましい。

カメラを止めるな!」との類似性も指摘されるが、いちばんの肝はこのアットホーム感といい意味でのハンドメイド感だろう。状況が状況だけに難しいが、できればリピートしたくなる〈空気〉がある。「カトウたちにまた会いに行こう」みたいな。

「なぜ君は総理大臣になれないのか」感想

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なぜ君は総理大臣になれないのか、みた。代議士・小川淳也の17年を追うドキュメンタリー。泥水をすすりながら理想を求め続ける彼の政治家人生は挫折の連続だ。「政治家に向いてないのでは」と自問自答し、声を枯らして選挙運動をする姿に胸が熱くなる。日本はなぜ変われないのか?の答えがここにある。

妻や両親は彼が政治家を辞めたいと言っても止めないとこぼす。それだけ政治家の家族とは大変なのだろう。2017年衆議院選挙の活動を追う中盤は見応えがあった。「お父さんのポスターがそこら中にあるのが嫌だった」と笑いながら、全力でサポートする二人の娘。その必死な姿に胸を締め付けられる。

これを見ると政治家たちの万歳三唱も感じ方が変わってくる。これだけ泥臭く戦っている仲間たちがいる。テレビの画面越しに見るあの熱気は本物だったのだと知る。小川淳也は政界で勝ち抜くにはピュアすぎるのかもしれない。けれど、無所属を選びきれないあたり良くも悪くも〈普通の人〉なのだ。

そう、小川淳也という人は〈普通の人〉なのである。いわゆる〈政治家〉ではない。だからこそ彼の戦いに希望も感じれば、やっぱりダメなのかもしれないと絶望もある。しかし、小川は諦めない。死ぬまで戦うと宣言している。だからまだ、終わりじゃないと信じたくなる。いまのニッポンを映す傑作でした。

「1001のバイオリン」感想

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1001のバイオリン、みた。原発事故を機に東京に越した達也。職もなく家族に疎まれ気味の彼は現地に残した飼い犬を探し始める。受け止めたら全て無かったことになってしまうのではないか。「こうなったら地獄へ落ちてやれ」と。探しているのはタロウではない。疾走感溢れるラストに震える!超絶大傑作。

オムニバス映画「ブルーハーツが聴こえる」の1作。原発作業員として働いてきた過去。地元を捨てて東京で暮らす自分を、達也はどこか認めきれないでいる。魂をそこに置いてきたかのように、達也はフェンスの向こうを彷徨い続ける。豊川悦司の目が力強い。そして最後の咆哮!人生は何度でもやり直せる。

三浦貴大の演技もいいなあ。どこにでも居そうなお兄ちゃんがすごくうまい。中華屋でチマチマ酒飲む姿なんて最高です。

「私がモテてどうすんだ」感想

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私がモテてどうすんだ、みた。腐女子の芹沼は推しが死んだショックで激ヤセし、誰もが羨む美少女に変身するが…。わりと危ない橋を渡っている。荒唐無稽な掴みを強引に押し切るミュージカル、気合の入った長回しなど見どころアリ。山口乃々華のダンスよ!しかし〈肥ってる〉富田望生も可愛いのになあ。

E-girls山口乃々華を主演に迎えているおかげか、冒頭のミュージカルシーンがとてもいい。学園ドラマ×ダンスの作品はもっと増えて欲しいところ。同じくEXILE系列の吉野北人が踊らないのは寂しい。見終わって気づいたが、監督もLDH所属のタレント。なるほどと思った。

「HiGH&LOW THE MOVIE」で感じた古臭いジェンダー観。「私たちはおにぎり握って待ってよう!」と女性キャラに言わせてしまうセンスは、残念ながらこの映画にも見られる。「太った腐女子が激ヤセしてモテる」という危うい設定、最後に落とすところは一つしかない。そこはクリアしているのだが…。

BL趣味や肥満体型は〈直すべきもの〉として扱われる。いや、正確にいうとそこにはフォローが入り、大方の予想どおり(もはやネタバレではないと思うが)〈直すべきもの〉という考えは質されるのだが。しかしだとしたらオチは…と思わずにいられない。この設定を逆手に取ることはできていない。

単なる記号以上の働きはしていなかったのではないかと思う。この手の題材を扱うのは難しいし勇気がいるだろう。邦画の、しかもラブコメにしては踏み込んだ内容になっているし、それはそれで良かったとは思うんだけど。もっと行けたんじゃないとワガママを言いたくなってしまう。

〈見た目より中身〉ネタは「宇宙を駆けるよだか」が素晴らしかったからなあ。アレは〈美女になったのに人が離れていく〉のだ。一方「私がモテてどうすんだ」は〈美人になったから人が集まる〉。はじまりが違う。だから着地点は同じでも見え方が変わる。

「青 〜chong〜」感想

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青 〜chong〜、みた。面白かった!李相日監督の卒業制作。朝鮮学校に通うテソンの恋と青春を描く。ただ誰かを好きになったり、姉が恋人を連れてきたり、仲間と野球をやるだけで何かしら特別な意味が付きまとってしまう、在日コリアンの生き方。高校の描写が興味深かった。本当にああいう感じなのかな?

テソンの姉が日本人の婚約者を連れて来る。母は「チョッパリを連れて来るな」とこぼす。同級生は日本人と付き合っているがためにいじめに遭う。自民族に対する誇りとこの国で生きることへの複雑な感情が垣間見える。だが重く描き過ぎない。母の嫌がらせ激辛スープを頑張って飲んでむせる婚約者に爆笑。

「俺たちって一体なんなのだろうな」と。ふだんは日本人の名を使って暮らす。ゆえに在日コリアンに対する心ない言葉も耳にする。しかし、自分は自分。たとえ生まれ変わっても…。爽やかな決意を胸に見上げる青い空が広く、そして美しい。メジャー配給作品ではなかなか見られない設定。初主演の眞島秀和の朴訥な演技もいい。見応えあった。