映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「ラブ&マーシー 終わらないメロディー」感想:天才の人生について

はじめまして、じゅぺです。

映画の感想をまとめるためにブログを始めることにしました。前にもブログをやっていたのですが、1年以上放置しているので、仕切り直しです。基本的にはネタバレありで書いていくつもり。よろしくお願いします。

 

さっそくですが、今回はいちばん最近見たこの映画の感想について書きたいと思います。「ラブ&マーシー 終わらないメロディー」です。

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サーフミュージックの先駆け、ザ・ビーチ・ボーイズのリーダー、ブライアン・ウィルソンの半生を60年代と80年代の二つの時代で描く作品です。主人公のブライアンをジョン・キューザックポール・ダノの二人が演じているという、ちょっと風変わりな試みもしています。ボブ・ディランを5人で演じた「アイム・ノット・ゼア」を思い出しますね。

タイトルの「ラブ&マーシー」はブライアンのソロアルバム「I Just Wasn't Made for These Times」の一曲「Love and Mercy」からとっています。ちなみに、このアルバムのタイトルもザ・ビーチ・ボーイズの「Pet Sounds」の同名曲が由来です。ちょっとややこしいですね。

「ラブ&マーシー」では、この「Pet Sounds」を生み出すまでに精神を病んでしまう60年代のブライアンと、薬漬けでボロボロになっていた状態から立ち直る80年代のブライアンを同時並行で描いています。

お話の構成としては、人気絶頂期の若きブライアンと、胡散臭い医者のコントロール下で廃人同然のブライアンからお話が始まり、イケイケだったブライアンがなぜ80年代には孤独な引きこもりになってしまったのか、そして、彼はどうやってそんな状態から立ち直っていったのかが次第に明かされる形になっており、なかなかにサスペンスフルです。クライマックス、ふたつの時代が繋がって80年代のブライアンに収束していくシーンは、彼の錯乱した精神が混沌とした映像で表現されていて、結構面白いと思いました。

 

この映画の見どころは、ブライアンの天才ゆえの苦しみだと思います。彼は幼い頃から高圧的な父親の虐待を受けていて、右耳が聞こえません。しかも彼は大人になってからも父親の抑圧下にあり、マネージャーとして仕事の管理もされています。口答えができないんですね。

そんな状況の中で彼は内向的な自分が溜め込んでいる表現への欲求と、バンドの音楽の方向性にズレを感じ始め、これまでとは全く異なる方向性の作品を作り出します。それが「Pet Sounds」です。当然他のメンバーは反対しました。それでも彼はどんどん自分の世界へと沈み込んでいく。父親からの抑圧や周囲からの反発もある一方で、内側から湧き出てくる表現欲は無限に自分を刺激してくるのです。

こういうことが続いたので、結果的に彼は病んでしまうわけですが、これは本当に天才ゆえの悩みだと思います。天才すぎて周囲の世界に過敏になっているというか。常人にはなかなか理解できない領域なんじゃないでしょうか。実際、「Pet Sounds」は尖りすぎていて、正当な評価を受けるのに何年も待たなければなりませんでした。現在、このアルバムはロック史に残る名盤とされているそうです。アヴァンギャルドだったんですね。

80年代に入ると、もともとぶっ壊れていたブライアンの生活はさらに破綻していきます。雇った精神科医が非常に強欲でして、彼を薬漬けにして冷静な判断力を奪い、法定代理人として好き放題してしまうのです。80年代パートでは、ブライアンと恋愛関係にある女性メリンダが、この滅茶苦茶な状況をなんとか抜け出そうと奮闘するお話が描かれます。こっちはマインドコントロール下に置かれ、自由を奪われたブライアンの苦しみがジリジリと伝わってきて、非常に恐ろしい。胡散臭い医者ランディを演じるのはポール・ジアマッティ。「ストレイト・アウタ・コンプトン」でも、似たようなクソ野郎を演じていました。このランディが結構な曲者で、メリンダが交渉を試みても全く話が通じないんですね。なにかと屁理屈をこねて反論を封じては、怒鳴って相手をねじ伏せようとする。彼の本性がわかるにつれ、観客はランディとブライアンの父が似た自分であると気づくことになります。ブライアンは昔と同じ罠にはまってしまっていたのです。ハリウッドや日本の芸能界でもよく聞くですが、彼もまた心の弱った部分につけ込まれて金と才能を搾取されていたのでした。

 

結局、映画のラストで彼はメリンダに救われ、幸せな自分の人生を取り戻します。解体された生家の前で新たなスタートへの覚悟を決めるブライアンは勇ましく、希望に輝いていました。解放感があって非常に好きな場面です。

しかし、やはり僕の関心はブライアンの天才ゆえの苦しみです。僕のような映画オタクはこういう天才の作り出すものをひたすら消費する側。一回ぐらい、溢れる自分の才能に溺れる経験をしてみたいものだと思ったりもします。実際なったらなったで、逃げ出したくなるんでしょうけど。ある意味、こうやってダラダラとブログに感想を書くのも、映画や音楽で人びとを感動させるアーティストへの憧れ、自分もなにかを表現して他人に見てほしいという衝動の現れなのかもしれません。なのでみなさん、これからもお付き合いよろしくお願いします笑