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「この世界の片隅に」第4話 感想:人生の道は選べない

こんにちは。じゅぺです。

今回は「この世界の片隅に」第4話について。

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ついに周平さんの過去が明かされます。周平さんには、周囲に反対されてリンさんとの結婚を諦めた過去があったんですね。リンさんは遊女でした。きっと二人は本当に愛し合っていたんでしょう。でも、二人の幸せな未来は叶いませんでした。そんな過去の詰まった押し入れの茶碗が切ない。

人生にはどうにもならないことがあるんだと思わされます。周平さんの過去を知ったすずさんの反応も辛い。たっぷり愛情を浴びてきた毎日が信じられなくなってしいます。もう時計の針は戻せません。知りたくなかった周平さんの過去を記憶から消すこともできません。「目でイチャイチャ」していた二人が微笑ましかっただけに、余計に重く感じてしまいます。けど、「代用品」の言葉が頭の中でぐるぐる回ってしまうのは、すずさんらしくて、ちょっとかわいかったです。このいじらしさが、シリアスな展開でも過度に感傷的なドラマになるのを抑えてるんですよねえ。

あと、径子と息子のエピソードも泣けました。すずさんと周平さんの溝が深まっていく今後を予期させる不穏な気配を漂わせつつも、しっかり者の息子と、どこまでも「母親」な径子の別離を描いています。個人的にグッときてしまったのが、息子の訪問に気づいた径子の表情。一瞬で、心配事だらけの優しいお母さんの顔になるんですね。いつもと全然違う顔。母の子への愛を想い、泣いてしまいました。径子を演じるのが尾野真千子で本当に良かったと思ったシーンです。

長男が径子のもとを離れてしまうのは、彼が「家を継がなければならない」という使命感と義務感に駆られているからです。きっと径子と折り合いの悪い義母が吹き込んだこともあるんでしょう。しかし、この時代の「長男」が背負っていたものを思うと、なんとも言えない気持ちになります。彼は「長男」であるがゆえに、母と離れるという人生を選択したわけですが、それは「長男」という役割によって自ずと人生が選択されてしまったとも言えます。また、「長男」の争奪戦を見た妹は「私は奪い合うをするほどの価値がない」と傷ついてしまいます。「女」であるがため負ってしまった心の傷。無邪気な彼女の人生には少しずつバイアスがかかっていくのでしょう。東京医大の不正採点のニュースを思い出してしまいました。いつの時代にもあるんですね。

第4話は、人生のどうにもならなさを描いたエピソードだと思います。周囲の反対で諦めざるを得なかった周平さんとリンさんの未来、そんな二人の過去にどうしても嫉妬せざるを得ないすずさん、そして、「家」を背負う幼き長男。背景はなんであれ、人生には選択できない道もある。そんなやるせなさと人生の折り合いについて考えさせられる1時間でした。