「COLD WAR あの歌、2つの心」感想(ツイッターより再掲)
COLD WAR あの歌、2つの心、みた。超絶大傑作。祖国を追われた音楽家と歌手の愛を描く。離れては相手を求め、また離れ…。この人のいない人生なんて美しくない。終わりなき男女の不条理。モノクロ表現の甘美さよ!ふりかえれば美しい記憶だけが強く脳裏にこびりついている。帰る場所はひとつしかない。
成瀬巳喜男「浮雲」を挙げる人が多いのも納得。振り子時計の時間は止まらない。あっちへ行って、こっちへ行って。音楽学校での衝撃的な出会い。ふたりのあいだに引力が生まれた瞬間、この関係は永遠になる。つねに心の何処かをあの人が占領している。パリに移ろうと、結婚しようともはや逃げられない。
引きの絵で人間をちっぽけに撮ったり、人混みの中にズーラたちを紛れ込ませたり。ピアノが反射するヴィクトルの手に、鏡に映るやつれたズーラの顔。たっぷり余白を取る構図、そしてふたりの逡巡を象徴するかのような鏡像の数々。しかもモノクロ。情報が絞られている分、受け手の心にすっと入ってくる。
15年を駆け抜ける本作。88分の短さながら濃密。見ている間にも作品のイメージは流転していく。はじめてズーラとヴィクトルが出会った瞬間の美しさは、かけがえのないもののように思えてくる。88分の間にも記憶は美化され、「もう一度一緒に過ごしたい」というふたりの願いが切実に響いてくる。