映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「ひとよ」感想

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ひとよ、大傑作!父を殺した母が15年ぶりに帰ってきた。家族ってとっても迷惑で、面倒で、それでいて離れ難いものだ。多くを語らないが故に人を傷つける長男、自らの怒りの感情に葛藤し続ける次男、グレてるけど優しくて甘え上手な長女。みんな何を失ったのか。その生々しさは他人の家を覗き見る感覚。

どしゃ降りの中のタクシーや、テーブルに並ぶ朝ごはん、そして〈ビンタ〉など、イメージが繰り返される。僅かに現れる差異から見える変化が面白い。そして重苦しいテーマでありながら、意外と笑いも多い。それぞれのずれっぷりが可笑しいのだが、家族だとそこに「またやってるよ」が加わるのである。

共に過ごしてきた時間の長さや、これまでの関係性が透けて見える。メタメタに罵り合う時もあれば、くだらない冗談で笑い合う時もある。うざったいところや永遠に変わらない悪癖はわかった上での付き合い。上に男二人、末っ子に女の子の並びは、我が家と同じなので、いろいろ考えてしまう。

俳優陣の熱演は言わずもがな。すごい演技というのは、ひとりでは作れないものなのだなと思う。人間どうしのやり取りなのだから、ひとりだけ上手くてもダメ。その空間にあるすべての人やモノとの作用の中で生まれるのだろう。稲村家の4人の存在にはスクリーンの外にも無限の広がりと豊かさを感じる。

ただね、やっぱり佐々木蔵之介のくだりはドラマ作りすぎだと思う。あそこで冷めてしまった人がいるのもわかる。わざわざ話を転がすために用意するだけの価値があったのか?やるにしても、もっと深掘りできたのでは?と。