映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「his」感想

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his、超絶大傑作!田舎で孤独に暮らす迅の元に、13年前に別れた渚が娘を連れて現れ…。世界はあなたが思っているよりもずっと優しい。でも、その扉を開けるのはあなた自身なのだ。ずっと昔の恋が忘れられないこと、怖くて不安でたまらないこと、ずっと我慢してきたこと。すべて伝えないと始まらない。

迅=宮沢氷魚と渚=藤原季節の、ひさびさの再会に距離感を掴みかねているぎこちなさが可笑しい。13年の空白は、恨み言を連ねるにも、やっぱりごめんねとやり直しを持ちかけるにも長すぎる。それでも、ちょっとずつあの頃の感覚を懐かしみながら、娘の空をかすがいに、新たな関係を模索していく。

「mellow」は「好きです」と伝えることから始まる物語だったけど、「his」も根っこは同じなのだと思う。恥ずかしがったり、カッコつけたりしたって変えられない。絡み合った糸のように複雑な状況を打破していくなら、素直な気持ちで向かうことから始めよう。切なく苦しいけれど、爽やかな後味が残る。

どちらかというと迅と渚の関係よりも、渚と玲奈のそれの方が面白い、というかこれまであまり映画で扱われてこなかったことのように思う。いわゆる夫/妻の非対称性って、男/女ではなく、ブレッドウィナー/家事担当のバランスなのですね。ジェーンスーもコラムで似たようなことを言ってたけど。

二人のしがらみは、これまで男/女で描かれてきたことを、女/男でやっているわけ。そんな玲奈を演じる松本若菜も素晴らしかった。一見クールで感情が薄そうだけど、そうではない。本当の気持ちをぐっとこらえて我慢して踏ん張ってる人。その滲ませ方が上手かった。

藤原季節の演技の間が最後まで会わなかったのだけど、一方、その佇まいだけでストーリーを語る宮沢氷魚がすばらしかった。あの細長い指に、彼の繊細さや孤独を感じてしまいました。口数は多くないが、その分、彼の中で動いているであろう様々な感情への想像を掻き立てられた。