映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「河内カルメン」感想:若い身体の一瞬の輝き

こんにちは。じゅぺです。

今回は鈴木清順監督「河内カルメン」について。

f:id:StarSpangledMan:20190121084523j:image

河内カルメン」は田舎生まれの少女が甲斐性のない男たちに振り回されながら「女の出世街道」を歩んでいく…というお話です。鈴木清順監督の作品は「東京流れ者」と「けんかえれじい」を見ました。どちらも話の流れからすれば唐突にすら思えるアヴァンギャルドな演出が目を楽しませてくれます。特に「東京流れ者」のクライマックスの決闘シーンが好きですね。まるでハリウッドのミュージカルを見ているかのような原色のライトと影のコントラストが芸術的なのです。

 

これぞ鈴木清順!な演出

本作「河内カルメン」もド派手で遊び心たっぷり演出が散りばめられています。魚眼レンズのフラッシュバックや、あえて「セット感」を見せる悪夢描写など、予想を超える切り口にあふれています。たとえば、主人公の露子が金持ちに利用されて昔好きだった男にカメラの前で襲われる場面。どうしようもなく惨めで残酷な中盤の山場なのですが、ここでは襖の向こうから大量の照明が登場して、戸惑う露子を追い回す描写があります。どこまでが現実でどこまでが空想なのかわかりません。混乱する露子の脳内をのぞいているかのようです。あと、露子が居候しているモデル業界の大物の家の場面では、まるで舞台のように一軒家を輪切りにした巨大なセットをそのままパンで撮るショットがあります。わざわざこんなにお金をかけて奇抜なシーンにする意図はイマイチよくわからないのですが、見ていて楽しい場面です。特に意味はないけどおもしろいショットがたくさんあるというのはとても贅沢ですね。鈴木清順作品ってそういうところが素敵だな〜と思い始めました。

 

ヒロイン・露子の魅力

そんな奇抜な演出にもかき消されず、大きな存在感を放っているのが主演の野川由美子。とっても麗しいです!女という性を利用され、傷つきながらも躍動していく様をたくましく演じています。若いのに色っぽいですよねえ。冒頭の処女だった頃の露子と、一皮向けて東京に進出したラストの露子はまるで別人なのですが、そのギャップがまた良いんですよね。しかし彼女の芯にあるあっけらかんとした強さは変わらずその瞳に残っていて。彼女の魅力なしには成立しないお話だと思います。

 

男と女の愚かな関係

露子は非常に複雑なキャラクターです。彼女はけっして男に頼って生きていこうと思っているわけでも、若さを武器に傍若無人に振る舞ってやろうと企んでいるわけでもないのに、生まれつきのその美しい身体が男たちの欲望と自らの不幸を呼び寄せてしまうんですよね。前半のクライマックス、露子はモデルに転身するため、家に住み着いた「ダダ」の元客の男を追い出すことにします。彼女は自らのふるまいに男が怒ることを期待していたのですが、男の方は「こんな俺に夢を見させてくれてありがとう」と感謝の言葉を述べるのみ。そんな男の反応に苛立ちを隠せない露子は、あえて彼に嫌なところを見せてもらうことで踏ん切りをつけようとするのです。はじめは飄々としていた二人だけど、お互いに怒るフリをしているうちに、蓋をしていた本当の気持ちが溢れてきて、本当は別れたくなかったのだと気づき、涙します。でも、もう時すでに遅しなんですよね。彼らは心から相手を求め合っていたけど、残念ながら一緒にいられる運命ではなかったのです。

 

露子はこのあとも好きだった幼なじみの男のために身を尽くし、最終的にはセックスすら許してしまいます。一方で自分に優しく、適度な距離感を保って接してくれる男には、なんの興味も示さない。なんて愚かで、ピュアなんだろうと思ってしまいます。彼女はこういう生き方しか知らないんですね。憐れですが、美しくもあります。これだけ自分の中で起こる衝動に素直に生きられるって、素晴らしいことです。

そして、この若さが失われたら、彼女はどうなってしまうんだろうとも考えてしまいます。ある意味、「河内カルメン」は一瞬しかない女の輝きを作品なのかもしれませんね。