映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「由宇子の天秤」感想

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由宇子の天秤、観た。いじめ事件を追うドキュメンタリー監督の由宇子は、私生活で信念をゆるがす「事件」に直面し…。並走するふたつの「事件」をさまざまな角度から照らしてなお観客を混乱させない脚本さばき!だれも「観察者」ではいられない。真実は存在しないのだから、みんな「当事者」なのだ。

由宇子は「私は誰かの味方になることはできないが、光を当てることはできる」と語る。光を当てる角度を変えれば、当然にモノの見え方は変わるし、光の当たらない面には影が生まれてしまう。立体的なモノの表面すべてを同時に見るのは不可能なのだ。同じように「真実」も存在しない。

ジャーナリズムを問う映画というとそうでもなく、かといって由宇子の信念を軸に物語を組み立てるわけでもない。事件の真相を追うスリラーとしても演出できたはずだが、あえて劇伴や回想を一切いれず、映画全体をある種の報道番組かのように組み立て、ドキュメンタリー風のシーソーゲームを体感させる。

深田晃司監督の「よこがお」を思い出した。メディアスクラムネットリンチの醜悪な現実、いまもこの日本のどこかで起こっている地獄が、これでもかと詰め込まれている。しかし、報道を通じて事件を知り、加害者を批判する私たちも「観察者」ではない。彼らに影響を及ぼす「当事者」である。

「サマーフィルムにのって」の河合優実が180度違う演技を見せる。机に突っ伏すその姿だけで、学校や家庭でどう暮らしているのか、わかってしまう。すばらしい佇まい。もちろん主演の瀧内公美が良いのは言うまでもない。基本的に彼女は「受け」の演技な気がするけど、どれも良かった。