「天国はまだ遠い」感想
天国はまだ遠い、みた。17年前に死んだ女子高生・三月の幽霊とAV編集を生業とする男、彼の元に訪れる三月の妹。やはり震災を連想。大切なひとが消えても、世界は変わらず回り続ける。本当にそこに死者は存在するのか?という緊張感。ヒリヒリとした居心地の悪さの設計で濱口竜介に勝るものはない…。
残された側の人間はただ死者がすぐそばにいるのだと信じることしかできない。そう信じ、願いさえすれば心の傷を癒したり、死者に「好きだ」と告白することすらできるのかもしれない。三月は「私は雨に濡れることも、匂い嗅ぐこともできないけど、音を聞き、目で見ることができる」と言った。
これって、まさしく映画を見ている自分自身の置かれている環境だと思った。俺はただ画面越しに人物を眺めることしかできない。話しかけることもできなければ、筋書きを変えることもできない。ただ観客として向こう側の人間のために祈ることしかないのである。
「天国はまだ遠い」は雄三の見る三月が本物の三月なのかどうか最後まで明かされることはない。現実とファンタジーの境界があいまいなのだ。そこがまた面白く、気持ち悪いところでもあるのだけど。人は「嘘じゃないかな?」と思っても、どうしても本当のことなのだと信じたくなる時がある。
なにか結論めいたものがあるわけではないけど…三月が本物の幽霊なのか?それとも雄三の妄想なのか?という疑問、それから何にも触れられない三月の立場は、現実と虚構=フィクションの関係、そして観客と映画の関係と密接に関わっているように思えてならなかった。
もっと言うと〈嘘=虚構=死者の存在を信じること〉についての作品としてまとめてもいいのかなと。なかなか整理がついてないけど、少なくとも芯にそういうものがあったんじゃないのかなとは思いました。面白かった。