映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「リアリティのダンス」感想

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リアリティのダンス、みた。崖から飛び降りようとする幼少期の自分にホドロフスキーは語りかける。「苦しみに感謝しなさい そのおかげで いつか私になる」。生にしがみつくことを強烈に肯定するこの映画を、好きにならないはずがない。地獄巡りを経て独裁者の仮面を脱ぐ父・ハイメの姿に泣く。大傑作!

エンドレス・ポエトリー」が素晴らしかったので前日譚となる本作を鑑賞。前半は「男は強くあれ」と虐待を繰り返す毒親のハイメと幼少期のアレハンドロの関係を、後半は独裁者を暗殺するため家族のもとを離れ、浮浪者として彷徨うハイメにフォーカスして物語を紡ぐ。

クラスメイトが死に、自分は学校でいじめられる。ハイメが旅先で出会った馬は毒草を食べて死に、それを見て独裁者は嘆き悲しむ。父を愛した女は孤独に絶望して首を釣り、救ってくれた聖者は教会で倒れ、崇拝する天使と憎んでいた独裁者がまさしく自分の鏡であると知り、ついに〈自殺〉する。

それでも僕たちは生きている。神や正義などといった抽象的で偉大な何かではなく、すぐそばの人の愛に生かされている。村の勇者になろうとしてペストに罹った父に尿を浴びせて奇跡を起こし、暗闇の怖さを消し去る母。記憶を失ったハイメを愛した孤独な女、貧者となって街を彷徨く彼を救った聖者。

徐々に独裁者の仮面が剥がれ、本来の弱さを見せていくハイメ。アレハンドロは何を思って映画を作ったか。けっして良い思い出ばかりではなかったであろう父を、幾多の試練を乗り越えた生身の人間としてスクリーンに生き返らせ、その人生を肯定した。なんとか家に帰ろうとする彼の不様な姿に心打たれる。

エンドレス・ポエトリー」の時も感じた、根拠のない勇気と高揚感。もうすぐ90歳の爺さんが生きろ、とにかく生きろと叫んでいる。とてつもない愛とエネルギーが詰まってる。究極の自己愛、ナルシズムと言えるかもしれないが、その圧倒的な自己肯定ゆえに観客の僕らも勇気づけられる。

人生の大大大先輩がこれだけの熱量をもって「生に執着せよ」と、己の人生を祝福することによって宣言するのであれば、それはもう若造の俺は信じるしかないのだと思う。なんかもうここまで来たらひれ伏すしかない。こんな人生賛歌ないですよ。映画館で見たかった大傑作。感想おしまい。