映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「ある過去の行方」感想

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ある過去の行方、みた。大傑作!再婚を考えていた男女が連れ子の秘密を知ってしまい…。次第に明らかになっていく過去とそれに伴い変化する関係性。幾重にも重なった謎を紐解くサスペンスフルな筆致にうなる。意外と自分の不満や願望って他人の言動で決められていくものなのかもなあ。

サミールの元奥さんは植物状態で、彼とマリー=アンヌにはそれぞれ連れ子がいて、彼女の元夫アーマドとは別居してるけど一応まだ婚姻関係にあって…と関係はかなり複雑。これを交通整理して面白いドラマを積み上げていく。すさまじい。こうもこんがらがってると本人たちも何が正解なのかわかってない。

そこが肝なのかなと思っている。誰かに責任をなすりつけたり、癒しを求めて寄りかかったり、都合の悪いことはなかったことにしようとしたり。ひとつの事件取っても全員見方はバラバラ。そしてアーマドを除いてみんな自分のことしか考えていない。頭の中は大混乱。人に言われて初めて気づきを得る。

これは家族に関する話だが、振り返ってみるとエゴまみれだ。「愛なんかない」とすら感じる。自分の娘のはずなのに、冷静さを失って暴力を振るう。植物人間状態の元妻をほったらかして心の穴を埋めようとする。誰も彼も家族のために、子どものために…とは考えていないのだ。起きてしまった過去は変えられない。そう受け止めて新しい関係を構築するしかないのだ。でも、最後の病室の場面、寝たきりの元妻が香水の匂いを嗅いで涙を流す。サミールの手を握る。「ああ、まだ愛はあるんだ」と思った。「愛なんかない」と思わせて「やっぱり愛はある」と語るのがこの映画のポイントなのだと俺は解釈した。