映画狂凡人(映画感想ツイート倉庫)

さいきん見た映画の感想を書いています。ネタバレありなので未見の方は注意してください。

「‪ 悲しみの忘れ方 Documentary of 乃木坂46」感想

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悲しみの忘れ方 Documentary of 乃木坂46、みた。超絶大傑作!メンバーの母親目線で語られる成長の物語。普通の女の子だった娘がどんどん〈遠く〉へ行ってしまう様をグロテスクにえぐり出す。特に秋田から単身上京した生駒里奈がセンターに担ぎ上げられ重圧に押しつぶされていく過程は恐怖。残酷。

AKBとか坂道みたいなアイドルに惹かれる人の気持ちが長らく判らなかった。容姿で言ったら彼女たち以上の女優やモデルはたくさんいる。歌や踊りだってもっとうまいアーティストは他にいる。じゃあ何故なんだろう。あくまで俺の中でだけど、その解は彼女たちの〈物語〉なんだろうなと思った。

言ってしまえば彼女たちは〈素人集団〉なのである。しかし、それがどんどん磨かれてスターになっていく。一人ひとりにバックグラウンドがあり、ストーリーがある。たくさんいるからこそファンはその中から〈推し〉を見つけていく。

一方で大半のファンは一人だけ応援してグループに全く興味がないということはないだろう。やはりそこにはグループ全体の物語があり、ファンのあいだで共有される(メチャクチャ大げさな言い方をすれば)神話がある。WWEの〈貧困から這い上がった最強ヒーロー〉的な虚構性ももちろんそこには存在する。

シングル毎の選抜制だったり、握手会の倍率だったり、至るところに競争がある。限られた枠に向かって全力で走るメンバーの姿をファンは応援する。前から思ってたんだけど(否定するわけではなく)なかなかこの選抜制というのは悪趣味なルールだと思う。個人的には人が蹴落とし合うのを見るのは楽しい。

スキャンダルがあれば一気に総スカンを食らう。映画では松村沙友理の路チュー報道の顛末が語られる。ここで思うのは「やっぱりみんな普通の女の子だよなあ」と。結局彼女の再起もグループの物語の中に組み込まれていく。これは結構エグい話だと思っている。

生駒里奈が結成当初からグループの顔としてセンターを任される。「私には何もない」そう繰り返し語る彼女の意思とは関係なく、まわりの期待はどんどん上がっていくし、当然ファン以外からの注目も集まるようになる。自分ではコントロールできない範囲に自分のイメージが拡散していく。俺だったら無理。

西武ドームのバースデーコンサートの場面。白石麻衣が満席のステージに向かって一人向かっていく姿をカメラは捉える。個人的にここがベストカット。月並みな感想だが、彼女もいろんなものを背負ってあの華々しい舞台に立っている。そう分かった上だと、また違った輝きが見えてくるのである。

こうやって感想を並べてみるとすごくネガティヴに捉えたように読めちゃうけど、全然そんなことはなく、彼女たちが努力して夢を掴むその眩しさに、誰かを応援するってのも悪くはないなあと思ったし、この世界も奥が深いと今さらながら気づきました。生駒里奈が母校でfightを聴く場面も泣けるし。